毒の実を食べるも、少年に救われる

 手を動かすことはできたので、手を伸ばして葡萄の実をとり、すこし食べると、いくぶん元気が出たように思えた。さらに二十数日たち、病状は回復に向かいつつあったが、動くことはできず、それでいて胃の中はからっぽだった。「この疫病で死ななかったにしても、餓死してしまうかもしれない!」と本気で心配せざるをえなかった。

 こんなとき大きなカラスが上空にやってきて、一片の肉を落とした。それを食べると、いくらか体力が戻ってきた。この肉を食べながら(これが人家からくすねられたものであるなら)人家のある村まで歩けないだろうかと考えた。木の枝を拾って杖にして、私は歩き始めた。なんとか歩けたが、とうてい遠くへは行けそうになかった。

 と、大きな木に赤い果実が成っていたので、取って食べた。ところがそれは毒の実だったらしく、おなかが絞られるように痛くなり、もうこのまま死んでしまうのではないかと考えた。このただならぬ痛み、だれが耐え切れるだろうか!

 そのまま朦朧としていると、夢の中に二十歳くらいの黄色い衣を着た美少年が現れ、言った、「こっちへおいで!」。同時に虚空から声がした、「これは毒だよ、食べてはいけないよ!」。また別の声がする、「でも毒を薬に変えることのできる人には害を与えないよ」。

 「毒はあなた自身が生み出したもの。その毒が、果実なのだ。しかしあなた自身の力で、それは甘露のごとく美味なるものになり、身体に効く薬となるのだ。あなたの旅はそうして成就されるだろう」。

 その声によって私は目覚めた。からだは軽くなり、陽光を浴びて温まった。

 山を越え、谷を渡り、進んでいくと、岩の上にまさに夢の中で見た少年が座っていた。私は小躍りし、彼との邂逅を喜んだ。少年はこの先の道や村の様子を事細かに説明してくれた。またこう付け加えた。

「もうすこし行くと、村の上のほうに霊験あらたかな岩洞があります。どうかそこへ行ってください。私はいま忙しくてお供できませんが、あなたとの縁はただならぬものがありそうなので、のちほどお会いすることになるでしょう」。

 そう言うと少年は深い森の中にふっと消えた。



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