アガルタ 

5 スウェーデンへの旅 

 

「ほんとうにおまえかい、ティモシー」おばあちゃんの声には笑いと涙が入り混じっていた。「ただひとりの孫よ、ほんとうに生きていたのかい? どうして電話してくれなかったんだい? ほんとうにおまえなんだね、それともだれかの意地の悪いイタズラかね? もし本物なら、ティム、できるだけ早くこっちへ来ておくれ」

「そっちに向かってる途中だよ、おばあちゃん。四年前いっしょに暮らしただろう? だから見ればわかるはずだよ。会いたくてたまらないよ。じゃ、また!(トゥードル・ピップ)、おばあちゃん」

 トゥードル・ピップというのはぼくが小さい頃よくふたりで使っていた言い回しだ。これを言えばぼくが本物だと確信を持てるだろう。彼女のうれしそうな笑い声は理解したことを示していた。

 マシューがやってきて、ぼくが部屋を出たあと、ナンシーが話を聞きたがっていたと言った。ぼくの話すべてを聞きたいのだという。話の要点はわかったので、それをほんとうのこととして受け入れているという。

「思うに、妻は第二の視覚を持っているようだ」森へいっしょに歩きながら、マットはそう告白した。

「エリノアのように」ぼくは笑いながらつけくわえた。

「テロスのこと、テロスで起きたすべてのことを信じる気持ちはあるよ」いたずらっ子のように目を光らせながらマットは言った。「それに反する証拠が見つからないかぎりね。妻と子供に関していえば、彼らがふたりとも他と違うことはずっと知っていた。おれは超常現象を信じるし、また信じていないともいえる。この世界の向こうに別の世界があるのはまちがいない。ほかの世界を想像するのはわれわれの傲慢かもしれないけれど」

 通りすがりのライムの木の枝のほうにぼくは手を伸ばした。驚くべきことに――マットの驚きぶりはいうまでもないが――枝が木の本体からなびいてぼくの手に届いた。

 マットは道の途中で止まった。「おまえも魔法使いだったのか?」彼は顔をしかめた。「いったい何が起こったんだ? 何をしたんだ?」

「ぼくだって仰天したんだ」ぼくは叫んだ。同時に、シャスタ山の上でのマヌルのハグはハグ以上のものではなかったかと考えた。これは彼、あるいはエリノアがぼくの後ろに見た男からのメッセージにちがいなかった。ぼくはマットにたいし笑みを浮かべ、背中をポンとたたいた。

「さあ、いまなら信じてくれるだろう」ぼくは聞いた。「あす、飛行機でスウェーデンへ向かうことにするよ」

「時間をつくってきみを空港へ送るよ」とマットはこたえた。「テレポーテーションできそうだけどね! そう、きみは奇妙なことをたくさん見てきたんだろうけど。体を大事にして、すぐに家に帰るのが一番だ。家に戻ったら、車を買うべきだね。そして道に出て、人々に話をするべきだ」

 翌朝、スウェーデン行きのフライトの機内のなかで、子ども時代の友人の反応について考えた。空港での別れ際の言葉はこうだった。「きみのためにそこに行くからな! 何があろうとも。すべてが大丈夫であることを願うよ」。ぼくのことを信じてくれる数少ないひとりであることがよくわかった。地球空洞説は多くの人にとってあまりに突飛だった。そして不幸にも、それは騒動を引き起こしかねなかった。でもエミリー、つまりおばあちゃんが信じてくれることには確信を持っていた。

 タクシーがフローダのおばあちゃんの家――十歳のとき以来来ていなかった――に近づくと、おばあちゃんは両手を広げて駆け寄ってきた。食い入るようにこちらを見て、そして笑い声をあげながら、地表で唯一の家族の生き残りである親戚は近づいてきて、ぼくをハグした。彼女のやつれた頬の上を涙が伝った。そして何度もおなじことをささやいた。「生きてたんだね! ほんとに生きてたんだね! ああ、あなたのお母さんが知っていたなら! 悲しむ必要もなかったのに、それで死んでしまったのさ」

「でもおばあちゃん、ぼくらの人生の旅路は運命づけられたものなんだ」腕を取り合って家に入るとき、ぼくは言った。ぼくはおばあちゃんのほうをちらりと見た。白髪は上品に整えられていた。顔は繊細なつくりで、しわはほとんどなかった。覚えているよりかは太めだった。でもティリーほどにはどっかりとはしていなかった。ぼくは美しい居間に入ると、古いアームチェアに沈みこんだ。

「ティム、すべてを話してちょうだい。異国に三年間もいたんだから。少々のことでは驚かないから」彼女は明るく笑いながら、サーモスジャーからコーヒーをそそいだ。これは驚くべきことではないのだけど、地球の内側の国に三年間いたんだと告げた。はじめおばあちゃんはひどく驚いたようだが、それからイスから飛び上がってぼくをハグした。

「ティム、なんてすばらしいの」彼女は息をのんだ。「地球の中はきっと空洞だってずっと思ってきた。学校に通っていたころからずっとよ。でもみんなそんなことはありえない、地球の中は火山のように溶岩と火でいっぱいだからって。この点で科学者が正しいとはとうてい思えなかったの。だからお願い、覚えていることのすべてを思いだしてちょうだいな」

 ぼくはしゃべりまくった。そして最終的にぼくはテロスにたいしてホームシックを感じ、目に涙をためていた。ぼくは手を伸ばし、おばあちゃんの手を握った。

「どうしたらミッションをまっとうすることができるだろうか」ぼくはうなった。「だれも信じてくれないんだもの、おばあちゃん以外は。おばあちゃんはほかの人とちがっているし……」

「彼らが信じるようにさせなければならないのよ」おばあちゃんはぼくに誓った。「信じる人はたくさんいるわ。あすスタートしましょう。でもいま楽しい夕食が待っているのよ。朝はたっぷり眠れるわ。長い、疲れる旅を終えたばかりだからね。あたしはあなたのお母さんと妹のことを話すわ。

 あなたの義理の兄弟はあなたの言うことを信じないでしょう。とても不快な人物よ。あなたの妹がなんであんな男を選んだのか理解に苦しむってとこね」

 おばあちゃんが話す番だった。できるだけ早くこちらに来ることができてよかったと思った。お母さんとおチビちゃんのことがわかったのはうれしかった。ぼくの人生のなかには明かせない部分もあった――それは終わったことだった。新しい地平線が開かれようとしていた。ミッションを実行するいい時機だった。

「ティム、知ってるでしょうけど」夕食のあと、火をつけるのを手伝った暖炉の前で、おばあちゃんは言った。「あたし自身のことについて、話したことのないことがあるのよ。あたしはじつは霊媒なの。あたしは人を助けてきたし、けっこうそれで有名なの。感謝しなくちゃね。ほかの世界について、ほかの惑星について、宇宙意識についてレクチャーすることもあるわ。あたしは人が内なる自身を見つけるように助け、彼らの心の声を聞き、心がまっすぐになるように助力するの」

「おばあちゃんはそれをカードの中に見ることができるの?」ぼくはおばあちゃんをさえぎってたずねた。

「いえ、あたしはそれを人の目の中に見ることができるの」彼女はほほえみながら冷静にこたえた。「唇がうまく表現できないことを、目は伝えてくれるの。あたしは彼らのオーラを見ることができる。それはつねに役に立つわ。あたしにはまた、夜行性の友人たちがいるわ――ガイドとも呼ばれているけど――彼らはあたしを助けてくれるの。昼間にもあらわれるけどね。そのときはトランス状態でなければならないの。スピリット・ガイド、魂の導き手はいくつもの生涯を通じていっしょだった。彼の話すことを聞き、ときには話しかけるの」

「それはイエス?」

 おばあちゃんは弱々しく笑った。「違うわ」おばあちゃんはこたえた。「イエスとコンタクトを取ると、たいへんな数のクレームが来るの。イエスや神とコンタクトを取るというのは、最近の現象ね。あたしのガイドはメルチゼデクというの」

「メルチゼデク!」ぼくはまた話をさえぎった。「なんていう偉大なガイド! 死者の中から立ち上がったアセンション・マスターだ」

「知ってるわ」口元にひきつった笑みを浮かべながら、彼女はしずかに話を再開した。「彼はすばらしいわ。信じられないほど賢いの。彼はアルケミスト。アブラハムの教師。そしていま、あたしの先生なの」彼女は意味ありげにクスクス笑った。「孫のティム、あたしの話を信じてくれる?」

「もちろん」圧倒されたぼくはため息をついた。「信じてるよ。おばあちゃんはメルチゼデクを見ることもできるの?」

「内なる目で見ることができるわ。あたしはたくさんのことを彼から学んだ。いずれそれについては話すつもりよ。家族が死んだときは、あたしを慰めてくれた。ティム、いま彼はあなたを助けようとしているの。あえてあたしには話してくれないけど。あなたを家に帰すためできることすべてをあたしはやった。心のずっと奥で、あなたがどこかに生きているという望みを捨てなかった。どこか遠い岸辺に打ち上げられているのではないかと思ったの」

 多くの人々がアセンション・マスターに耽溺する潮流をぼくはけっして理解したことがなかった。しかしおばあちゃんがマスターのひとりを信仰していると知ったとなると、これら高位のマスターたちがほんとうに人間とコンタクトしていることを認めずにはいられなかった。ぼくはこのことにすごく興味があるというわけではなかったが、たまたまテロスでこの種のことを知り、学ぶことになった。これについてはあとでテロスへ戻るとき、説明することになるだろう。テロスにいるとき、ぼくはいかに「現在」を生きるかについて学んだ。現在とは、香気のように自由な時間の概念である。しかしいまぼくは地上の時間に順応しなければならなかった。

 ぼくはおばあちゃんから一冊の真新しい日記帳をもらった。地上において、これは必要不可欠なツールだ。



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