アガルタ 

19 アガルタの通常に戻りツーリストらと会う 

 

 鳥が歌い、花々や暖かい地面、木々が香る夏のような、晴天の夜明けだった。マヌルが姿を現したとき、妻とぼくはあずま屋に坐っていた。

「休日は終わりです!」彼は声を上げた。「仕事に戻らなければなりません」

 ぼくたちはため息をついて待っているホバークラフトに入った。

「何人かの新参者がいます。彼らは地球のこの地域について知らなくてはなりません」マヌルは説明した。「テロスについて手短に紹介するためにシシーリャが必要なのです。彼らは詳しいことまで知ることはないでしょう。彼らはシャスタ山からやってきました。しかしいまだに目覚めているとは思っていません。夢を見ていると考えているのです。いくらかは覚醒してもらう必要があります」

 ツーリストたちはポルトロゴスの入り口近くの牧場で待っていた。おばあちゃんとレックス、そしてティッチもそのなかにいた。ぼくもそこに加わることにした。というのもぼくを永遠にとりこにしたアガルタについてもっと知りたかったからだ。

 みんな草の上に坐っていた、興奮して、期待に胸を膨らませて。

 そのなかにマヌルがいた。彼はほほえみながら、しゃべっていた。おそらく人々をなだめ、落ち着かせようとしていたのだ。彼らは自分がどこにいるのもわからなかっただろうから。ぼくもここに来たのは「たまたま」だと(心の中では)考えていた。彼らも同様の体験をしたのだろう。

 20人ほどのおとながいたが、子どもはウェンディとピエールだけだった。シシーリャはとてもチャーミングだった。妻はあたかも非日常的な光線をそれぞれに放っているかのようだった。

「ようこそ!」彼女は叫んだ。「もしあなたがたがいまどこにいるのだろうかと不思議に思っているなら、わたしから説明してさしあげましょう。ここはテロスという町です。この町は地球の内側、つまり地底にあるのです。あなたがたはその存在を聞いたこともなかったでしょう。あなたがたがご存知なのは、アフリカ、アジア、ヨーロッパ、北米、南米、オセアニア、南極の七つの大陸だけでしょう。

 あなたがたの常識では、地底の大陸なんて存在しないかもしれません。でも三次元の人々にとっても、物理的に存在するのです。テロスはシャンバラという都についで二番目に大きな都市です。わたしたちの町のどれも、隅々にまで悪がはびこるあなたがたの喧騒の町とは似ても似つきません。ここは地上ではノスタルジーを感じる恋い焦がれる永遠の平和の王国なのです。

 そうです、ノスタルジア! アガルタ人はもともと地上に住んでいました、あなたがたのように。わたしたちについての本もありますが、ベストセラーにはなっていないようです。地球の空洞にある国が灰色で危険だと想像してください。しかし見ての通り、そうではありません。テクノロジーに関していえば地上の人間の何光年も進んでいます。将来的にはあなたがたとシェアできればと思います。その将来はあなたがたが考える以上に近づいています。

 アガルタには120の地下都市のネットワークがあります。これらの住人は、アトランティスとレムリアの先進文明の後裔なのです。

 さぞ驚かれているだろうと思います。わたしたちの太陽がどうやってよい天候とみずみずしい緑を提供できるのかと。地球の殻の厚さはおよそ800マイル(1300キロ)です。地球は堅固ではありません。だから重力の中心は地球の中心ではなく、地殻の中、およそ400マイル(650キロ)のところにあるのです。地球の磁力の源がどこにあるのかは、長い間謎でした。地球の中心の内なる太陽が謎めいた地球の磁力の源だったのです。それによって太陽は光をわたしたちに注いでいるのです。

 19世紀末に二コラ・テスラという発明家がいました。当時、地球内部の空洞へ通じる入り口はたくさんありました。テスラは、石炭、石油、ガス、その他環境を汚染するいかなる燃料がなくともすべての機械を半永久的に動かす動力を発見しました。彼はこのテクノロジーをパブリックドメインに提示しました。そして人々は地球内部に好き勝手に入るようになったのです。しかたなくわたしたちは多くの乗り物の出入りを禁じました。いまも封鎖されたままなのです。テスラ自身は没しましたが、実際、彼はここにいます。物理的にはあなたがたほどの存在ではないのですけど。

 地球の空洞には何百万人ものカタリ人、つまりカタリ派の人々が住んでいます。彼らの一部は木星にも住んでいます。こうしたことを話すのは、彼らがとても変わっているからです。彼らは信じがたいほど背が高いのです。高いブーツなんて必要ありません! 地上の3万6千人の人々がいまここ地底に住んでいます。この二百年間、およそ50人が地上からやってきました。この20年に限って言えば、8人がやってきて永住しています。何人かの新参者はわたしたちとともにあります。ほかにもあらたに到着した人々がいます、あなたがたみたいに。

 わたしたちはポルトロゴスという巨大な図書館を擁しています。ここには宇宙全体の文書が保管されています。ギリシアとトルコの間のエーゲ海の真下にそれは位置しています。しかしながら現在、地上との直接的なコンタクトはなくなっています。わたしたちはポルトロゴスを図書館と呼んでいますが、実際、本はそれほど多くはありません。歴史的な物語はドラマ仕立てで演じられます。劇場のようなものと考えればいいでしょう。でも劇場よりはるかに高いレベルにあります。すべてをあきらかにすることはできませんが、ポルトロゴスにあるものの一部をお見せしましょう。

 アガルタのなかでは、パスポートも証明書も必要ありません。地球内部にわたしたちはエアポートを持っています。それは南極、北極の穴から外に通じているのですが、あなたがたの目には見えません。わたしたちは環境的にもやさしく、現存の高速やエネルギーの普遍法則を使って旅をします。わたしたちのテクノロジーははるかに進んでいるので、迷子になったり事故に遭ったりすることはほとんどありません。あなたがたは車輪を発明したかもしれませんが、それ以上の格段に進んだテクノロジーを発明することはできませんでした。

 わたしたちのすべてのエネルギーはフリーです。それがどのようにしてそうなっているのか、仕組みを教える計画があります。武器を作り出すからと、あなたがたはテクノロジーを嫌っていますね。ターゲットにとってだけでなく、動物王国にとってもエレメンタルにとってもこれらは破壊的なのです」

 エミリーは手をあげて大きな声で呼んだ。「シシーリャ、ここでの生活についてもっと話してちょうだい! もっと知らなければならないわ。だってテロスで生活することになったのだから」

 シシーリャは話をつづけた。「もっとも重要なことは、地上に住むあなたがたが歩く大地を破壊したくはないということです。草の葉や花々が踏みしめられることなく、それらが成長することを望んでいるのです。だからこそわたしたちはホバー、すなわち浮揚することを学びました。ここに滞在するなら、あなたがたも学ぶことになるはずです。ホバークラフトがホバーするようにわたしたちもホバーします。この芝生はとくにあなたがたのような重い地上居住者のために作られました。でも芝生のあるこのような場所はそれほど多くはありません。わたしたちは比較するとあなたがたより背が高いのですが、とても軽いのです。これは食べ物のせいでしょう。

 エミリーは家庭生活について知りたがっているようですね。もちろんわたしたちにもそれぞれ家庭生活があります! ご覧になったように、わたしたちは丸い、屋根のない家を建てます。丸い部屋には塵がたまりません。隅がないのですから。円形の部屋ではエネルギーが自由に動きます。一片の埃が部屋に飛んでくれば、エネルギーの波動によって即座に除かれます。真空掃除機とおなじような効果があるのです。これなどは実際的といえるでしょう。

 わたしたちは信じがたいほど豊かです。ありあまるほどの貴金属に恵まれているからです。家々は輝いています。外側からは、プライバシーが保たれています。内側からは、360度の景色を見ることができます。表面上は、暗い部屋に閉じ込められているかのようです。しかし内側からは、家の外だけでなく、星を直接見ることもできるのです。わたしたちの視界は妨げられることがないのです。ここには家々があるだけで、ショッピングセンターも団地も、自動車道もありません」

「食べ物はどうするの?」だれかが声高に言った。「みなさんベジタリアンなの?」シシーリャはくすりと笑った。

「当たりね!」彼女はこたえた。「ここでは食べるために動物が殺されることはありません。わたしたちはフルーツ、野菜、種、穀物を食べます。死んだ食べ物、すなわち動物や家禽類の肉、魚などには生命力がありません。分配センターがあります。わたしたちは毎日ここから食べ物を得ているのです。一部の者は普遍的な<源>から食べ物を得ています。それには<集中>が要求されます。

 働くは4時間つづきます。それは時間の節約であり、健康とダイエットについて深く考えるための時間なのです。わたしたちは急いだり、ストレスを感じたりすることなく、調和を持って暮らしています。浪費されることはなにもありません。進んだリサイクルの方法も知っています。わたしたちは地元で産出するものだけを食べ、添加剤はいっさい口にしません。ベジタリアン食品は老化を鈍化し、最終的に止めることもできます。あなたがたの言葉でいえば不死を実現したのです。わたしたちはエイジングをコントロールすることができます。好きなように寿命を伸ばすことができるのです」

「なんてすてきな人生だこと!」おばあちゃんがため息をつくと、みながどっと笑った。彼らはおそらく信じていなかった。この体制を理解するのは不可能だった。

「衣服はどうなっているの?」とても上品な女性がきいた。シシーリャはくすりと笑い、自分のロングドレスのスカートの裾を広げた。スカートはきらめくベルトで締められていた。

「これはどうかしら?」と彼女はきいた。「地上の人間からすると、ここのファッションは窮屈そうで、つまんないかもしれませんね。もちろんわたしたちは素材やテーラーを選ぶことができます。でも地上とはおなじではないですね。最新のパリ・ファッションがここに入ってくることはありません! わたしたちはソフトで、着やすい美しい色の服が好きです。

 わたしたちは外に出て必要ならケープをつけます。あなたがたはジーンズをはき、シャツ、ジャンパーを着ますね。わたしたちがそれらを着るのは地上を訪れたときだけです。思うにわたしたちは衣類で意識をし、衣類で想像をしています。同意されるかどうかわかりませんけど」

 上品な夫人はクスクス笑うだけで、返事はしなかった。彼女はシシーリャがつぎのように付けくわえたとき、血相を失った。「ご存知です? ここでは思考によって物事を生み出すことができるのです。考えることによって作り出すことができるのです」彼女はしゃべるのをやめ、ほんの一瞬、目を閉じた。そして手を振ると、美しい花束が現れた。そこにいる人々は叫び声をあげた。だれもが一種のマジックだと考えた。

 ぼくはこの場面の雰囲気が好きではなかった。ぼくは妻に近づき、肩に手を置いた。そしてぼくは石になったかのような上品な婦人を見た。その表情はなんだか醜かった。

「紳士淑女のみなさま」ぼくは高らかに言った。「あなたがたは学ぶために地球の空洞に来ているのです。妻はたくさんのことを語りました。妻は魔法使いではありません。だれもが思考のパワーによる創造を直接学ぶことができます。でもあなたがたは騒ぎ立てず、また耐えることが必要です。魔術や呪術、ウィッチクラフトはそれらには含まれていません。一方で知識は含まれます。地上の知識は、ここではそれほど発展しなかったとアガルタ人は考えています。一般人の言葉を借りるなら、ここではだれもがマジシャンということになるのですが。

 ぼくたちの文化を理解できない方は、早急にこの地球の空洞から離れることをおすすめします。そして元の地上のラットレース(ネズミの競争)にお戻りください。ポルトロゴスには入るべきではありません。それは偉大なる挑戦だからです」

 ぼくはシシーリャがまだ持っていた花束を手に取り、聴衆に向かって投げた。一瞬の沈黙があり、それから拍手が起こった。しかし上品な婦人はこちらを見ることもなく立ち上がり、待機しているホバークラフトのほうへ去っていった。残りの大半はポルトロゴスと呼ばれる驚くべき、かすかに光る図書館に入った。数人の訪問者は中に入らないで、いま聞いたことについて論じあった。彼らは入ろうとしなかった。地上のだれもこの話を信じないだろうから、このまま帰還し、訪れたミステリアスな土地について口を閉ざすべきだと彼らは考えたのだ。

 ぼくたちは過去と未来のホログラフィー像を見ながら、このすばらしい、巨大な建築物を歩き回った。ポルトロゴスについて記述するのはむつかしかった。第一に体験すべきものだった。それは物理的なもの、サイキックなもの、事実、娯楽が気持ち悪いくらいうまく混ざったものだった。地上の人々にとって過去のことは信頼が置ける本に書かれているので、活用することができた。しかし未来のことはまだ書かれていなかった。だれからも過去と未来はアクセスすることができた。あなたは選んだ時間と遊ぶことができた。あるいは時間の向こうへ行くことができた。この流れの中では、物事は恐ろしいものであり、つかみがたいものだったかもしれない。しかしここにいるときは、それは完璧といっていいほど自然だった。

 ぼくたちは公共の部屋で休憩を取っていた。ぼくと妻のとなりに坐っているエドムンドがたずねた。「われわれが話すのを避けている何かがあります。それは病気です。ここには病院がありますか? 医者はいますか? 健康はどういうシステムで保っているのですか? 病気になることはないのですか?」

「ええ、もちろん病気はあります」シシーリャはこたえた。「でもそれほど多くはありません。腕や足を折ることがあります。内臓がおかしくなることもあります。わたしたちは人間ですから。病気にかかった人や事故に遭った人を助けるヒーラーがいます。もし肋骨を失ったら、新しい肋骨を得ることができます。使い古された体の器官を新しいのと替えることができます。問題の数ほどに熟達したヒーラーがいます。エーテルの青写真に書かれた肋骨を失ったり傷つけたりすることはできません。ですからこの永遠の青写真から失われた、あるいは傷つけられた体の部分を修復するのです」

「精神面の健康はどうなんですか、もし精神分析医が必要だとしたら」きれいな黒髪の若い男が、その髪をずっと揺らしながらたずねた。ぼくは笑った。

「ぼくたちはみな分析医です」とぼくは説明した。「ここには賢い男女がたくさんいます。必要なときは彼らが助けてくれるでしょう。彼らはとても忍耐強いのです。どんな問題も解決する能力を持っています」。ぼくは難破したあとどれだけ気分が悪くなっていたかを思い出した。そして通常に戻るのがきわめて早かったことを。それに関しては友人のマヌルに感謝してもしきれなかった。

「ここにはテレビも電話もラジオもありません」ととても若い男が大きな声で言った。「お互いにどうやってコミュニケーションをとるのですか」

 シシーリャの笑い声が響き渡った。「わたしたちは自分の頭脳と思考を使います」と彼女はこたえた。「思考の力を使って必要なことができるようになりました。それが地上でどんなに役立つか想像もできないでしょう、バレンチオ」

 若い男は困惑した表情を浮かべた。「どうやってぼくの名前を知ったのですか」彼は指を鳴らした。「ぼくの出身地イタリアでは、カトリック教徒はいかなるたわごとも許していません。法王、ぼくのお父さんは聖書に忠実であることを求めています」

「法王がきみのお父さん?」ぼくは面食らってしまった。「イタリアでのことを言っているの? きみは法王の若い頃のあやまちだったんだな」

「そうは思いません」バレンシオは静かに言った。「だからぼくは旅をしているんです。ぼくは高位の祭司のひとり、レムフォール枢機卿からアガルタのことを聞きました。司教はフランス人で、いつもぼくに親切にしてくれました。バチカンで、見えないところで何が進行しているかぼくは知っていました。だから彼らはぼくを追っているのです。ぼくはいつも自分が生まれ育った場所から離れたところにいたいと考えてきました。ここに滞在することができればと願っています。ここではどんな宗教が進行されていますか? 宗教自体がここにはあるのですか」

「ツーリストは二日間の滞在が許されています」とぼくは言った。

 少年の表情に失望の色が見えたので、ぼくは言葉を加えた。「もしきみがほんとうに長くここに滞在したいのなら、ぼくが聞いてみるよ。きみはぼくの妻に宗教について聞かなければならないだろうね」

 シシーリャは少年に坐るようしぐさで示した。少年は彼女の足元に坐った。

「ぼくは僧院の中で育ちました」と彼は言った。「ぼくたちはひどい扱いを受けました。棒で殴られることもありました。学校を卒業すると、無理やり見習い僧としてバチカンに住まわされることになりました。

 ぼくと法王との関係は完全に極秘にされました。父はぼくを認知しないふりをしました。ぼくはときどき父に仕えたのですけど。父がぼくの目を見ることはありませんでした。ぼくの唯一の友人がレムフォール枢機卿だったのです。彼はギリシア語やラテン語だけでなく、もっとたくさんのことを教えてくれました。でなければ、できるだけ注意を怠らないようにがんばったのだけど、ごろつき扱いされたでしょう。

 ぼくはどうやらタブーを知ってしまったようです。このことについてはあとでお話しましょう。地球が空洞であると教えてくれたのはレムフォールでした。そこへ行くのに、海からも、シャスタ山からのルートもあると彼は言っていました。ぼくは逃走しました。まわりに置いてあったいくらかのお金を盗んで、南米行きの飛行機に乗ったのです。とても簡単でした。でもぼくは窃盗の罪で追われる立場になりました。お金をもらう正当性があるとぼくは考えていたのですけど。だっていままで一銭ももらったことがなかったのです。バチカンの老人たちは好きなだけ飲み食いし、物欲にとらわれているというのに」。彼は一呼吸置いた。ぼくは割って入った。

「バレンチオ」ぼくは言った。「正直に話してくれてありがとう。ほんとうはきみを拘留すべきなんだろうけど、ここではそんなことはしない。ぼくからその筋に話してみようと思う。さて彼らがなんというか。そのときまでエドムンドといっしょにいるといいよ。エドムンドはふたりの問題児を預かっているのだけど、その手助けをしてあげればいい」

 エドムンドは話のすべてを聞いていたので、笑いをこらえることができなかった。「バチカン、おお、バチカン!」彼は腿をたたきながらクスクス笑った。「おれたちと暮らすのは問題ないよ。部屋はたっぷりあるしね。ここには盗むお金もない。むしろ法王様に宝石を贈るべきだね。ここでは宝石を得るのは簡単だ。敬意を払った丁寧な、愛情たっぷりの手紙を添えてね」

 バレンチオは混乱しているように見えた。しかしつぎの瞬間にはニヤリと笑った。

 ぼくは厳しい顔をしようと思った。しかしそれはぼくが得意とするところではなかった。「で、きみはいくつなんだい?」とぼくはたずねた。

「19です。もうすぐ20になります」と答えが返ってきた。「ぼくを地上に戻さないでください! バチカンはどこにでもスパイを送り込んでいます。ぼくはシャスタ山の拘置所に連れていかれるでしょう。レムフォール枢機卿はぼくがどこにいるか見当がついているでしょう。それを話そうとはしないでしょうけど。彼は正しい心を持った唯一の人なのです」

「政治と宗教!」ぼくの新しいおじいちゃん、レックスは叫んだ。「シシーリャ、この重要なテーマに関してどう考えるのかね」

 妻の笑顔が凍りついた。あきらかにこのテーマは取り扱いたくなかったのだ。「レックス、本当のところを言うと、巻き込まれたくないの」と彼女はこたえた。「アガルタにはひとつの宗教しかありません。愛が住まう場所、永遠の源の信仰です。反対者も自由思想家(フリーシンカー)もいません。この愛に関してはみなひとつなのです。わたしたちはこれを光の信仰と呼んでいます。すべてが愛においてひとつなのです」

「わかりました。しかしここではだれが統率するのですか。だれかが、あるいはグループがこの国を治めているはずです」今度はエドムンドがたずねる番だった。バレンチオの顔には驚きと不安が交雑していた。

「もちろん」とぼくはこたえた。「12人のマスターたちの委員会によって治められています。12は終結のためのマジックナンバーです。だからマヤの文化においても地球に変化が訪れるのは2012年なのです」

「知ってるよ。だけどあなたがバチカンのことを言うのは許されていないよ」とバレンチオは反論した。「ぼくは心の中に自分の宗教を持ってるんだ。ぼくのお父さんは天国にいるんだ。地球上にぼくがいることをお父さんは知らない。お父さんは法王だからね」

 この若者が父および過酷な成長にたいして苦々しく感じていることがよくわかった。「それでお母さんはまだ生きているの?」とぼくはたずねた。

「いえ、もうこの世にいません」バレンチオはこたえた。涙を必死にこらえていた。「人は鳴くことを許されていないんだ」厳格な修道士のもとで形成された世界観の影響を受けているようだった。そこでは厳しい神の審判が人間の心に下される。

「お母さんはぼくが生まれてから数か月後に死んだんだ」黒髪の少年はつづけた。「お母さんの死には不審な点があるんだ。赤ん坊を産んだあと、合併症で亡くなったという人がいる。その目的はぼくを非難することなんだ。レムフォール枢機卿はぼくの気が休まるようにと助けてくれた。

 お母さんはイタリア南東部に広大な土地を所有する尊敬される貴族の娘だった。法王は幼少時この近くに住んでいた。お母さんは両親から土地を取り上げられ、見放された。彼らはぼくのことを生きていく価値のないごろつきとみなしていた。もし枢機卿レムフォールがぼくのケースを問題視してくれなかったら、いまごろは殺されていたと思う。で、ぼくは皮膚の厚い修道士たちに引き取られることになった。これがぼくの半生。できれば、ここにいたい。修道士たちはいろいろと教えてくれたよ。占星術、地質学、上級数学、フランス語、英語、ラテン語。どれかを使うことになるのかな?」 

「まあ、なにができるか見てみましょう」と少年にほほえみながら、シシーリャはやさしくこたえた。「ほかに質問は?」

「ここに税金はあるのかしら? お金は使わないの? 食べ物や服、家を買うとき、どうやって支払いをするの? それともこういったものを割り当てるだけなの? 賃金をもらうことはあるの?」またも質問攻めにしているのはぼくのおばあちゃんだった。

「地上とおなじじゃないよ、おばあちゃん」とぼくは言った。「ぼくたちは物々交換をするんだ。どこにだって物品センターがあるからね。必要なものだけ取って、終わったら戻すんだ。交換しあうってことだね。

 自分たちのものは自分たちで作るんだ。労働時間は4時間、この間は懸命にやることになる。もしなにかを組織立てしようとするなら、プランニングとか、いつもだれかが助けてくれる。ぼくたちは何も買う必要がない。シェアするだけだ」 

「法と秩序はどうなってる? 警官や弁護士、裁判官はいないの?」これらの質問を

発したのはレックスだった。

「法律はあります」とぼくはこたえた。「法体系はとても古いものです。時のはじまりから民主主義はありました。アガルタのネットワークは地下の安全性に責任を持っています。問題が起こり、個別に解決が必要となった場合、神の光のもとで、あるいは正義の聖なる法律の下で裁判がおこなわれます。長く生きているので、ぼくたちは体験と智慧が豊富なのです。複雑な事件は、ここにはそんなに多くありません。ここに住む古代人の多くはもともと地上に住んでいました。だから善悪をいかに見分けるか知っているのです」

「思うに、新しい一日がエネルギーを運んでくれるまで、ここに寝るべきです」そう叫んだのはエドムンドだった。彼は両脇にふたりのおてんば娘を連れていた。そのときティッチが短くほえ、巨大な体を持ち上げると、いぶかしげな眼でぼくとシシーリャを見た。バレンチオはエドムンドや子どもたちと歩いていった。その先には辛抱強く待っていたホバークラフトがあった。その機体は一日の終わりの輝く黄金の光を浴びてバラ色に光っていた。それは天国の眠りを約束しているかのようだった。

 
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