アガルタ 

21 レッスンがはじまる 

 

 バレンチオに何があったのか。おばあちゃんのパーティに彼はやってきた。彼の逃走劇について実りある話し合いができた。不安、希望、そして父親にかまってもらえないという大きな悲しみ。彼は自分を孤児とみなし、ぼくたちといっしょにいたがった。マヌルはアガルタかもうひとつの惑星に住み家を与えられないかどうか、銀河委員会にたずねてみると約束した。こうしている間、彼はエドムンドと子どもたちとともに過ごした。彼はだれからも愛された。

 ぼくが推測する以上にシシーリャはマヌルが教えてくれるレッスンのことを知っているように思われた。愛の結びつきからすぐに離れなければならないことをぼくは懸念していたけれど、彼女はそんなに長くはならないからと慰めてくれた。多くのレッスンは家でおこなわれるし、彼女もその場にいるという。それだけでなく彼女には彼女の日々の決まりきった仕事があり、そもそもアガルタでは一日に4時間以上は働かないことをぼくは思い出した。そのあとは、本人の自由時間なのだ。奇妙なことは、すべての仕事があてがわれた時間にぴったりはまるということだった。地上でもそれは達成できることかもしれないけど、そのためには人はより自己に厳しくなくてはならなかった。

 翌朝マヌルは時間通りに到着した。ぼくはこのフレンドリーな、背が高くてスリムな長い金髪の青年に頼りきりだった。彼といるとすっかり安心しきった。

 ティッチもそうだった。ホバークラフトに乗り込むとき、犬は狂喜した。しっぽを絶えず振りながら、ぼくとマヌルの間に押し入ろうとした。狭すぎてかなわなかったけれど。

 ホバークラフトはテロス郊外の田園にとまった。外に出ると、麦畑でひとりの農民が働いていた。ぼくたちは彼のわきを通り過ぎていった。見ると彼は種入れの筒を肩にかけ、手で種をまいていた。ぼくは驚かずにはいられなかった。地上ならトラクターを使って簡単にできるのに。

 突如、自然霊のホストである人の背丈ほどの高さのエレメンタルが現れた。とても脆弱で、ほとんど目には見えなかった。

「わたしたちは自然霊といっしょに仕事をしているのです」しっかりと手を振りながら農民は言った。「生命力を維持するために種が正しい位置にあるかどうか彼らがチェックします。あなたが食べるものすべてにバイタリティーは残っているのです。それがすべての種の秘密なのです。デーヴァたちは地上を助けるために戻りたがっています」

「目を閉じて、ティム!」マヌルが命じた。

 ぼくは目を閉じた。許されて目を開けたとき、ぼくたちは熟して黄金色になった小麦畑のまっただなかにいた。そばにいた農民は高らかに笑い、叫んだ。「無駄にまかなかったので、いまこうして小麦がなっているのです。作物はそのままに成長させましょう」

 それは見事な美しい穀物だった。ヤグルマギクかケシ、ヒナギクだったとしても、魔法をかけたら、やはり黄金が波打っていただろう。

「覚えておいてほしいのです」農民といっしょに歩きながら、マヌルは言った。「地上ではどこからでも食料を入手できるでしょう。けれどもあなたの生命力を高めるのは、地元でとれたものだけなのです。ほかの土地から来た食べ物を取ったところで、あなたの生命力が増すわけではありません。むしろあなたの身体に異質な何かをもたらすのです。異質なものが入ることで、あなたの身体はしばしば不協和音を奏でます。実際、あなたは無駄によく知らない人々のことを思ったり感じたりしているといえます。これらはみなあなたに返ってくるのです。知らず知らずのうちにこれらはあなたの内臓器官に影響を与えます。ほかの国々から思考を摂取することによって、眠っていた不安や恐怖がふたたび盛り返します。あなたはこうした考え方やアイデアはどこから来たのだろうかと思いながら、立ちつくしているのです」

「それはほんとうですか?」共食いのようだと感じながら、おののいて叫んだ。「ただ自分自身でいたいだけなのですが」

「あなたはあなた自身です。パニックになる必要はありません」マヌルはぼくの背中をポンとたたきながら高らかに笑った。「地上の人間は自然に帰るべきでしょう。事物の見た目に惑わされてはいけないのです」

 ぼくたちが話している間、ティッチはあちこちでクンクンと嗅ぎまわり、脚をあげた。そして坐って用を足そうとしたので、ぼくは犬にやめさせようとした。すると農民がぼくを押しとどめた。

「最良の肥料は動物のものなんですよ」と彼は言った。「耕作可能な土地で使用するため、われわれは町や家々から肥料を運んできます。人糞はそのままの状態で粉状にします。そして獣糞とミックスして、砂の多い、無臭のパウダーにするのです。自然の肥料を使った結果、最良の成長が得られるのです。人工的なものが多いと、そういうふうにはいきません」そう言いながら、彼は空を指さした。人工的に肥沃になった田畑がすぐ頭上にあるのは、奇妙なことだった。もちろん、実際はかなり遠いのだけど。

 ぼくたちはふたたびホバークラフトの中にいた。

「とてもすばらしいレッスンでした」ぼくははれやかに言った。「ここに農民がいてとてもうれしかったです。それほどの苦労がなくてもいい収穫が得られるとは」

「努力は関係ないのです」マヌルはこたえた。「わたしたちは自らの意志で一生懸命働くのです。それは母なる地球の良心によるところが大きいでしょう。わたしたちは人工的な肥料は用いません。さてつぎのレッスンは信仰に関するものですね」



⇒ つぎ