パドマ・タンイクによる占星術の誕生 

 チベット占星術の歴史をまとめるにあたって、私はパドマサンバヴァの伝記である『パドマ・タンイク』のなかで語られる歴史について述べたい。この分厚い書は、14世紀にオルギェン・リンパによって発見されたテルマ(埋蔵経典)である。それは108章から成り、グル・リンポチェ(パドマサンバヴァ)の話だけでなく、8世紀のチベットや同時代の偉大なグルたちのことにも言及している。

 占星術を扱う章では、智慧のボーディサットヴァ(菩薩)マンジュシュリー(文殊)とすべての神聖なる科学のことを描いている。この空間で、彼(グル・リンポチェ)は書く技術、聖なる言葉、文法、占星術、卜占を統治しているのだ。彼の明妃、サラスヴァティーは音楽と芸術を鼓舞している。

 マンジュシュリーは笑みを欠かさない、心優しい16歳の若い王子として描かれる。彼の完璧な身体は美しいサフロンの黄色で、絹と宝石で飾られている。彼は雪獅子か蓮花の上の月盤に足を組んで坐っている。右手には無知の暗闇を切り裂く至上の知識(プラジュニャー)の燃える剣を持っている。左手には蓮のくきを心臓のあたりに持っている。左肩には蓮の花があり、知識の象徴である書を持っている。彼の雷のような声は、無知の眠りをむさぼる者たちを叩き起こす。占星術が開始されるときは、マンジュシュリーはかならず召喚されるのである。毎朝、僧侶やラマたちは無知を退散させ、知性、記憶、饒舌、理解を促進させるため、マンジュシュリーの祈祷文をよむ。

 占星術の伝説によれば、マンジュシュリーは実質上、デミウルゴスの役割を演じる。現在のカルパ(時代)のはじまりにおいて、未来の宇宙はなおも混沌としているかもしれないので、マンジュシュリーは自身の心から巨大な黄金の亀をつくりだした。そしてこの亀は原初の海から現れた。宇宙が安定した基盤を求めているという夢を見ながら、マンジュシュリーは亀の甲羅を黄金の矢で貫いた。傷ついた亀はひっくり返り、血と糞をまき散らしながら海に沈んだ。そこから宇宙を構成する要素が生まれたのである。創造された世界はそれゆえ亀のたいらなお腹の上に乗っている。マンジュシュリーは亀のお腹の上に通時のすべての秘密を聖なる象形文字のような記号で書き記した。