<補足> ウヴァーニはいつなのか?
アイリーンと数々の実験に取り組んだ超心理学者ローレンス・ルシャンが面白いエピソードを紹介している。(『霊媒、神秘主義者、物理学者』1966)
心理学者のアイラ・プロゴフはアイリーンがトランス状態にあるとき、アイリーンの支配霊であるウヴァーニに思わず「この前会ってからどうされていましたか」と聞いてしまったというのだ。というのもウヴァーニはしばしばプロゴフに「この前会ってからどうされていましたか」とたずねたので、おなじ質問を返したにすぎなかった。しかしこんな質問をしてはいけないのは、暗黙の了承事項だったのだろう。霊媒に降りた霊に「してはいけない質問」というのはけっこうあるものなのだ。たとえば(アラブ人と思われる)ウヴァーニにアラビア語で何というか、といった類の質問はタブーである。
予期せぬ質問にウヴァーニは混乱し、押し黙ってしまった。おそらく前回会ったときからこの日までの記憶がなかったにちがいない。われわれが前夜の食事の内容を聞かれて、一瞬頭の中が真っ白になるのと似た感覚かもしれない。
ウヴァーニは降霊会のときに「概念化」されたときのみ存在するのであり、その間は存在しないのである。だから人はウヴァーニが「何か」と質問すべきではなく、「いつか」と聞くべきだとルシャンは言う。ウヴァーニが自ら主張するように時空を超えて存在するのか、それとも多重人格から現れた人格なのかという問いは無意味なのだ。
アイリーンのもうひとりの人格アブドゥル・ラティフに関しても、ロザリンド・ヘイウッドが興味深いことを述べている。彼女は自分の超常的な能力だけを使ってアブドゥル・ラティフとの接触を試みた。そしてわかったことは、アブドゥルは論議のテーマのためにのみ存在しているということだった。言い換えると、ウヴァーニよりもアブドゥルのほうが存在の範囲が狭いということなのだ。