40日間断食の苦行に挑む 

 スンダルは、ハリドワルとデラドゥンの間にあるガンジス川の川岸に近いカジリバンの森で40日間の祈祷と断食の苦行に挑むことにした。彼の頭の中にあったイメージは、ブッダの苦行ではなく、イエスの「荒野の40日」だった。

 列車のなかでスミスという英国人医師と隣り合わせた。彼はスンダルから断食の話を聞き、「あなたがそれをやりとおせるとは思えない。やめたほうがいい」と忠告した。もしもの場合の連絡先を教えてほしいといわれ、スンダルはスシル・ルドラやレフロイ司教の名をあげた。

 スンダルはカジリバンの森に入り、竹が密集した静かな場所を見つけた。彼は40個の小石を集めて山盛りにした。毎朝ひとつずつ小石を除き、なくなったとき40日断食が達成されるのである。また使い慣れた新約聖書を傍らに置いた。ときおりそれを読んだり、賛美歌を歌ったり、祈ったりした。

 しかし断食修行は予想した以上に苦しかった。しだいに意識がおぼろげになり、小石を除いたかさえわからなくなりそうだった。23日が経過したところでついに彼は意識を失った。

 わずかに意識がよみがえったとき、彼は担架にのせられて運ばれていた。つぎに意識が戻ってきたとき、彼はベッドの白いシーツの上にいた。すると声が聞こえてきた。

「ああ、ようやく目覚めたようだね。力を抜いてください、サドゥーさん。竹を切りに来ていた人があなたを見つけたんですよ。あなたは列車でデラドゥンに運ばれました。それからクリスチャンの人たちがアンフィールドに馬車で運んだのです。ここはダルマジット・シン牧師の家です。私は息子のバンシといいます」

 3週間後、チャンディガルの駅でスンダルを見た男が「生きていた! 生きていた!」と叫んだ。「あなたはサドゥー・スンダル・シンさんでしょう?」

 その男が言うには、人々はみな彼が死んだものと思い、新聞に訃報記事まで載ったのだという。じつは列車で会った英国人医師スミスが早合点して新聞社で電報を打ったのだった。

 このスンダルの断食苦行は、インドのヨーガ文化とキリスト教をむすびつける象徴的な試みだったといえる。イエスの「荒野(あらの)の誘惑」といわれる40日間の断食がはたしてブッダの修行と似ていたかどうかはっきりとはわからないが、インド・サドゥーの恰好をしてこの苦行を行えば、外見上の識別はむつかしいかもしれない。

 


⇒ つぎ