(3)聖女マグダラのマリア 

 ニューヨーク・ホワイトプレーンズの悲しみの聖母教会で教区神父を務めるヴィンセント・シンクレアは不思議な能力を持っていた。幼い頃、いっしょに遊んでいた少女がブランコから落ちてケガをしたとき、思わず「タリタ・クミ、タリタ・クミ(少女よ、立ち上がれ)と呪文を口にすると、少女の傷が癒えるという経験をしたことがあった。叔母のマーサ・シンクレアもまた霊的能力を持っていた。彼女はインドやネパールを旅し、イエンガル・ヨーガを学んだ。そして英国に渡り、心霊協会で過去生ヒーリングを用いるヒーラーとして働いた。世界を救う3人の女性のひとりはこのマーサだった。

 もうひとりは1991年にセシル・ローズ(ローデシア、現在のジンバブエの建国者。世界支配をめざしていたという)の秘密結社に加入したアリッサ・ケツェルだった。彼女はのち、米国初の女性大統領となる。スワキルキ、マーサ、そしてこのアリッサの3人が鍵を握る女性だった。アリッサは、しかし凶弾を受けて斃れてしまう。

 インドのゴアで、叔母のマーサがそばにいるとき、ヴィンセントはヴィジョンを見たことがあった。

「あなたはいまどこにいるの?」

「エルシャレムです」

「まわりに何が見える?」

「神殿の火が見えます。夜です。大祭司カイアファがいて、サンヘドリン(最高法院)が開かれ、イエスが裁かれています。信用できる証言がなくて彼らは苛立っています」

「だれか現世で知っている顔はありますか」

「トマス・マニングです」

「それはだれですか?」

「カイアファです。参加している人々の心に毒を入れています。現世でもカイアファは復讐をしようとしています」

「ほかにだれか?」

「日本人の女がいます。私を誘拐した女です。スワキルキという名です。彼女はマグダラのマリアです!」

「ほかにはだれが?」

「あなたがいますよ、叔母さん!」

「わたしは何をしてるの?」

「あなたもマグダラのマリアです!」

「ヴィンセント、あなたは混乱しているのだわ。ほかにはだれが?」

「女がいます。知らない女です。彼女もマグダラのマリアです」

「ヴィンセント、だれもがマリアなのね。場所を移しましょう。そこでは何が起こっているの?」

「イエスと3人の女がダマスカスに向かって歩いています。3人の背中しか見えないけれど」

 ヴィンセントは聖なる女性の3つの顕現、創造・維持・破壊の女神に囲まれたマガダ国の最高司祭マリアを見ていることに気がついた。マグダラのマリアは、シャクティ(女性原理)の具現化された姿だったのだ。

 この3人は、ラクシュミー、サラスワティー、カーリーという3人の女神だった。アリッサ、マーサ、スワキルキは、ラクシュミー、サラスワティー、カーリーのアナグラム(並べ替え)だったのである。

 2012年、ジャンムー・カシミール州の聖地カトラのヴァイシュノ・デーヴィ寺院にこの3人が集まった。暗殺されたはずのアリッサも参加した。遺体は別人のものだったのだ。3人ははじめて集合したとき、なぜかしっくりとくるような気がした。女性原理はいま合一しようとしていた。

 

 

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