ドルイド僧イェシュア
ブリタニアに渡ったイェシュアはドルイド僧になるための試験を受ける。これもまた秘儀イニシエーションの一種なのである。イェシュアにたいする試験官の筆頭ドルイドは、イェシュアの叔父であるアリマタヤのヨセフだった。ヨセフは「錫の人」と呼ばれていた。というのも彼はブリタニアに来て工芸品をはじめとするあらゆる錫の製品を買いつけたからだ。一方オリエントからは大理石や織物をもたらした。
ヨセフが質問を浴びせた。
「グライン（glain）について説明せよ」
「グラインとは義務と真実の守護者である女神ケリドウェンの形ある象徴です。それはドルイドの活動を始める覚悟ができたあかしとして参入者に渡されます。それゆえそれは精神的にも肉体的にも準備が整ったこと、あるいは真実の象徴でもあるのです。ひとつかみの砂があれば、これらの象徴としては十分でしょう。注意怠りないこと、準備万端であること、精巧な技能をもっていることを示すために、玉虫色のガラス細工の船を作る必要はないでしょう。これら壊れやすくも輝かしいグラインはまことに永遠の精神、人の魂の象徴なのです。それが参入者に渡されたときが誕生の瞬間です。そのとき魂が至高の存在から分かれ、輝かしき人生を生きる人に加わったのです」
ドルイドのなかからざわめきが起こった。じきに静まり返り、しばらくして沈黙を破ったのはカリベ族のジャガー祭司（カリブ海のシャーマン）だった。
「トウモロコシの実、スピカの真の意味は何か」
「それはたくさんの粒から成っていて、豊饒や繁栄を表します。それは地上に育ったので、大地の力の結実を表します。精神的な意味において、茎の成長は象徴として重要です。その実はその過程を表すにすぎません。植物から葉や房が生ずるように、人からは癒しの力や絹のように柔らかな愛が生ずるのです」
「わらの象徴について説明してくれないか」と遠くにいたドルイドが聞いた。
「わらというのは、人と人の間の同意を示します。わらが折れるということは、両者の関係が壊れたことを意味します。わら自体はどんな形にすることもできます。わらから投げ矢を作ることもできます。それは野獣を射止めることができるのです。ここに本当の精神的な象徴を見出すことができます。人の思考とは風に揺れるたくさんのわらのようなものです。それから何かを作れば、特別な力を持つようになるのです。とくに野獣をおとなしくさせ、殺すこともできるのは驚くべきことです。服従しない人を屈服させるのにも用いられます。それは同時に折れやすいかよわいわらでもあるのです」
「虹の意味について聞かせてもらおうか」
「虹には保護という意味があります。というのも、それは水によって世界を破壊することは二度とないという神の約束を表すからです。虹にはまた、うまく試験を通った参入者を悪から守るベルトという意味があります。ドルイドの着ている何色もの衣を表すともいわれます。人はそれぞれ自分にとっての安全のための色を見つければいいのです。精神的にはつぎのように言うことができます。あらゆる人は内部に輝く虹を持っています。そしてそれは人に安全と保護をもたらすのです。どのようにしてもたらすかは、わたしはまだ存じませんが」
「輪にはどういう意味がありますか」
「輪の象徴は天文学的なサイクルを基礎としています。歳差運動を表しているのです。それは地球の回帰時間を表しています。世界が何度も眠りから覚めるのです。といっても、それが至高の意味というわけではありません。それは時間と時間が交差する十字架の回転でもあります。人は精神的な自己を解放するために、肉体的な自己を磔（はりつけ）にすべきなのです」
「アシの象徴について教えてください」
「アシは象徴の中の象徴です。それは偽りの象徴ともいわれています。というのも、それはどの方角から吹く風にもお辞儀をするからです。それは音もたてずに忍び寄る死をもたらす水蛇を隠しているからです。逆に考えるなら、それはあらゆる災難にたいしても負けない忍耐の象徴ともいえます。というのもどんな風にも、嵐に遭っても、はねかえすことができるからです。精神的な面でいえば、それは至高の存在と人との永遠の接触を表しています。人と神とをしなやかな紐によって結んでいるのです」
「オークの木について教えてください」
「威厳のあるオークの木は神性の象徴であり、目に見える表徴です。それは至高の存在がいます場所ともいわれています。また、より重要な意味があるのですが、もっとも大きく中央に位置するオークの木は、その不要な枝を切られ、十字架の形にされるのです。オークの十字架はもっとも神聖であると考えられます。この十字架は生きている十字架であり、至高の存在の住まいなのです。それは永遠の犠牲の象徴です。オークの十字架は至高の存在や仲介者である神の子、永遠の母地球の象徴なのです。それは聖なる三位一体の象徴です。人は犠牲を払いながらそれを求め、永遠の救済を得るのです」
「最後にヤドリギ、すなわちすべての癒しの象徴についてお聞かせ願おうか」その声の主はエジプト人ドルイドのスケイカスだった。
「ヤドリギ、すなわちすべての癒しは、毒を制し、菌の繁殖を抑える、あらゆる病気を治す完全なる薬の象徴です。広い意味でいえば、あらゆる危険や困難から身を守る薬ということです。倫理面でも、肉体においても、邪悪なものから守ることを表しているのです」
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