神の化身となる密儀(1)
イェシュアはその背中に完全なる女神シータの像を載せた。神像は重く、背中にのしかかった。イェシュアはこうして動作においてマハーデーヴァ(大いなる神)となった。背中の女神像を粉砕することができたとき、はじめて愛の重荷から解放されるのだという。イェシュアは重い像を背負い、飢えた、ふるえる身体で洞窟内を巡回しはじめた。まるで世界の片隅で死んだ妻を運んでいるかのようだった。一歩進むごとに叫んだり、わめいたり、悲嘆の声をあげたりした。イェシュアは洞窟の中を7回巡回した。そのとき祭司(ヒエロファント)が彼を呼び止めた。
「このドラマにはどんな趣旨が表されているのか説明してくれ」
「永遠の女として知られるシータは愛の女神です。その愛はよき愛です。彼女が死んだとき、世界中が泣きました。人々の魂は暗闇に包まれました」
「そのとおりである。おおいなる神秘を前にしたとき、新参者は終わりのない探求に嫌気がさして信仰心を失うかもしれないが、激しく泣くことによって魂の暗黒の夜の苦悶を知るのだ。さあ、もうひとつの趣旨を言ってくれ」
「言えません。知らないのです」
「それも真実である。おまえは知らないだろう。もうしばらくは知らないだろうから。しかし熟考し、記憶せよ。神の新参者は彼の心の力で、すなわち愛や意志によって、永遠の女、シータの形を変えることができることを。そうでなければ秘密の教団に受け入れられることはないだろう。神と人との間の障壁を乗り越えていくことはできないだろう。さあ、見ていなさい」
シータの像はイェシュアの背中から取られ、洞窟の南側入り口近くの黄金の祭壇の上に置かれた。祭司(ヒエロファント)のひとりが東へ向かって大股に歩き、玉座に坐った。すべての音はやみ、参加者の息遣いさえ静まった。はてしなくこの状態はつづくかと思われた。と、突然東の屋根のほうから雷鳴がとどろいた。すると東の大師は金色の光に包まれたのである。頭部から青白い炎が舌のように流れ落ちていった。炎は気が進まないかのようにゆっくりと這って洞窟の中を進み、ついにシータ像にまで達した。それは爆発と呼んでもよかった。光の炸裂である。そしてシータ像は自ら開き、なかの子宮からシータと見える姿があらわれた。シータは東の大師とおなじいでたちをしていた。イェシュアは驚き、とまどった。というのも彼はこの奇妙な儀礼が意味するところを知らなかったからである。
祭司(ヒエロファント)にせかされ、イェシュアは7人の幻想的なパントマイムのあいだをすりぬけていった。それぞれが特別なモラルの、社会的、霊的な物語を持っていた。それらは言葉で伝達できるものではなかった。
イェシュアは衣裳をまとってヴィシュヌ神の化身そのものになった。魚の神の化身である。物語は、こうだ。偉大なるブラフマー神がうたたねをしているとき、悪魔ハヤグリーヴァが聖典であるヴェーダを盗んだ。これなしに人類は生存していくことができないのだ。聖典がないために人は邪悪になり、世界中に堕落が広がり、ついには大洪水によって滅んでしまった。わずかにひとりの情け深い君主と7人(の聖者)だけが、世界を維持する役割を持つヴィシュヌ神が作った船に乗って助かった。ヴィシュヌは魚(マツヤ)に変身して海に飛び込み、海の底で悪魔と戦い、殺した。
イェシュアは巨大なプールに飛び込んで、水底に隠された3巻のヴェーダを取ってくるよう命じられ、プールに放り込まれた。水の中で立ち上がると、水深は浅く、胸の高さほどしかなかった。目の前にはグルの姿があった。喜んで近づこうとすると、突然グルがとびかかってきて、イェシュアの頭を水面下に沈めようとした。息ができず、ほとんど溺れそうになった。しかし力がよみがえってきた彼はグルの手を払い、水面から顔を出すと、プールの端に移動した。彼はもういちどプールに飛び込み、底にあった3巻のヴェーダを見つけた。
「2つの趣旨とは何かね」と祭司(ヒエロファント)が聞いてきた。
「ひとつは、神がいつも同志の人間を守るために戦うように、命をかけて戦うことです。二つ目は、神の論理においては、だれも教師や祭司にはなれないということです。最初に教えてくれた教師と戦わねばならぬときが来るのです」
⇒ つぎ