ペマ・オバル

 インドにムテク(外道 Mu steg)の国があり、邪悪な王の名をロクペ・チュージン(Log pa’i chos sbyin)といった。国にはノルサンという賢くて有能な商人がいたが、王は嫉妬し、海中の宝物を探しに行くよう命じた。ノルサンは500人の仲間とともに乗船し、はるかなる海を越えようとしたが、白黒二竜に木船は翻弄され、ノルサンは海に落ちた。ノルサンらは孤島で女たちと夫婦の契りを結ぶ。ノルサンは彼女らが魔女であることに気づき、脱出しようと考えるが、仲間はみな妻を置いていくことができず、結局ノルサンも戻ることができなかった。国では妻のダムセ(Bram ze)が悲しんでいた。その姿を見て同情したグル・リンポチェ(パドマ・サンバヴァ)は光を発し、その光に感光したダムセは子どもをもうけた。その名をペマ・オバル(Pdma O’d ’bar)といった。

 ペマ・オバルは小さいながらも、母親の仕事を助け、何事もよくできる能力を示していた。父親のときと同様、その才能を恐れた邪悪な王はペマ・オバルに、宝物を探しに海へ行くよう命じた。母親のダムセルは息子もまた失うことになるのではないかと危惧し、女神にお願いをした。女神は護身の秘密のマントラを教えた。マントラを知っていたので、ペマ・オバルは数々の難関を乗り越え、無事に戻ってきた。

 邪悪な王はつぎに羅刹国に行って金鍋・銀匙を取りに行くよう命じた。ペマ・オバルは金鍋・銀匙だけでなく、娶った羅刹女王と四人の羅刹女も連れてきたのだった。王は羅刹女らを奪い取り、さらに家臣たちにペマ・オバルを火刑に処すよう命じた。

ペマ・オバルは火の海のなかでマントラを唱え、じっとこらえた。その様子を見た家臣たちは恐れおののいた。しかし王はもし命令を成し遂げなければ、彼らを処罰すると言った。ペマ・オバルは処刑されることになる家臣たちに憐れみを覚え、自らが燃え尽きることを決心したのだった。

 ペマ・オバルの灰はダーキニーたちによってかき集められ、大海に撒かれた。そこから大きな蓮が育ち、花の中心に子どもが生まれた。その子はペマ・オバルの転生であるパドマ・サンバヴァだった。