Morpho menelaus                         PHOTO Mikio Miyamoto

セルロイド 

宮本神酒男 

 

亜熱帯の夜、ねっとりとした闇の中を 

セルロイドの蝶がぱたぱたと 

竹蜻蛉のような音をたてて翔んでいた 

翅(はね)が飛ばす金屑(かなくず)のような青鈍(にび)色の鱗粉が 

死んでいるように深く眠っている私の 

あるいは眠っているように深く死んでいる私の身体の上に降りしきり 

ついには金屑の丘陵となるまで降り積もった 

と思うと、私はいつのまにかエジプトのミイラのように 

鱗粉の帯を身にぐるぐる巻きにした蛹(さなぎ)に変身していた 

身動きできないまま、劫(ごう)の時が流れたあと 

わが魂は蛹から脱して光の宙(そら)に放たれた 

そのときの魂の浮揚感といったら! 

魂は風に乗るようにゆるりと蝶のかたちをとっていた 

軛(くびき)から解かれた喜びをどう表現したらいいものか 

そう、蝶となって舞うほかなかったのだ