古代中国呪術大全 第2章10
犬の磔(はりつけ)による邪気祓い
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いわゆる六牲のなかでも、犬はもっとも攻撃性に富んでいながら人間に馴化された動物である。家犬は門を守り、猟犬は野獣を捕殺することができたので、その能力が巫術に転用されても不思議ではない。殷・西周の時代、犬の犠牲は祭祀に頻繁に用いられ、殷には「殺犬陪葬」(犬を殺して死者とともに埋葬すること)の風習があった。
本当の意味での犬の邪気祓いが多く見られるようになるのは、春秋時代以降である。春秋時代の初期、秦の徳公は「伏祠を作り、村の四門で犬を磔(はりつけ)にして蠱(こ)の災いを防ぐ」と言い、後漢の服虔は「周代に伏祠なく、犬を磔にして災禍を防いだのは秦がはじめである」と述べた。
秦の徳公が用いた磔法は、犠牲のからだを刀で引き裂いて祭る方法で、その源は殷代の卯祭や西周の疈辜(ひこ)にたどることができるが、磔にするのは犬とは限らない。犬、羊、豚にさほどの区別はなく、どれも犠牲としては珍しくなかった。
秦の徳公の磔の方法はひとつではないが、犬の犠牲によって災禍を防いだ。というのは、犬を使わなければ、蠱の災いを防ぐことはできないと考えられたからだ。犬の犠牲は供え物であるだけでなく、呪術的な性質を帯びていた。