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古代伝説では、家犬は妖怪の九頭鳥の克星である。九頭鳥には、姑獲、天帝女、夜行遊女、隠飛鳥、鬼鳥、鬼車などの別名がある。
<伝説によればこの鳥はもともと十の頭を持っていたが、犬にかまれて頭をひとつ失ったため、九頭鳥と呼ばれる。春から夏にかけて、天気雨(晴天なのに雨)と遭うたびに九頭鳥は村から上空に飛び上がる。そのとき犬にのどをかまれているため、血が滴り落ちているという。血がどこかの家に落ちると、その家は災害を蒙る。>
九頭鳥は人の魂を掠め取るのが得意だという。とくに子どもが好きで、さらってこれを養う。子どものいる家では、血のあとを衣につけ、(犬にかまれた)目印とするという。
宋代の詩人梅堯臣は『古風』のなかで九頭鳥について書いている。
<犬にかまれて首をひとつ落として以来、いまにいたるまで血が流れ続けている>
<その血が滴り落ちると、その家はかならず没落する>
宋代の周密は、ある人がこの鳥を捕獲したことがあるという。
<身は丸く箕のごとし。十の首があるが、九つの頭しかなく、ひとつには頭がない。鮮血が滴り落ちていて、首からはそれぞれふたつの翼が生えている。飛ぶときには十八の翼が競うようにはばたき、傷つけあってしまう。>
九頭鳥は凶悪だが、犬を恐がるという弱点を持っているので、対処はしやすい。
南朝の頃、正月になると鬼車が飛んでくると人々は考えた。そこで夜になると、
<家々で床を鳴らし、戸を叩いた。そして犬の耳をねじり、ロウソクの火を消し、邪気を祓った。>
犬の耳をねじるのは、九頭鳥の天敵が妖怪を駆逐できることを知らしめるためである。