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剛卯(ごうぼう)は一般的に一対の言葉のひとつである。すなわち「剛卯」と「厳卯」の一つである。剛、厳卯の上には呪詛の言葉が刻まれ、厳めしい「疫鬼」という言葉が刻まれている。字数は最多で六十六字だ。
剛卯の上に刻まれているのは三十四字。「正月剛卯既央、霊殳(しょ)四方。赤青白黃、四色是当。帝令祝融、以教夔(き)竜。庶疫剛瘅(だん)、莫我敢当」。この銘文の意味は、「正月卯日に剛卯を作る。この神聖な霊殳(しょ)は四面の立方形で、各面の赤青白黃の色が代表する四方の鬼を駆逐する。上帝が祝融に命令し、夔(き)竜がふたたび害をなさないように教えさとす。あまたの疫鬼は頑強で制御しがたいが、我には抵抗しようとしない」ということである。
剛厳卯銘文は整然と韻が踏まれていて、決まり文句が使われ、内容が固定されている。漢代の剛厳卯銘文は、出土したものであれ、伝えられたものであれ、どれも決まりきったものである。ただ多少使われる文字が違う場合がある。安徽省亳(はく)県漢墓出土の剛卯は、現時点で唯一学術的にしっかりした発見とされる二枚の剛卯である。この銘文は璽をもって爾に代え、命をもって令に代え、厈蠖、赤疫をもって庶疫に代える。
『東京賦』李善の注に言う、「赤疫、疫鬼悪者なり」。厈蠖はべつの疫鬼の可能性がある。あるいは赤疫の別名の可能性もある。漢代の剛卯の銘文の語法は『詩経』に近い。たとえば「順爾固伏」は『詩経』の「謹爾侯度」「慎爾出話」「敬爾威儀」に近い。「既正既直、既觚既方」は『詩経』の「既方既阜、既堅既好」に近い。銘文の作者は意図的に『詩経』を模倣したのだろう。
剛卯銘文の「夔(き)竜」と「夔」は人に害をもたらす精怪である。しかし『尚書』「堯典」の楽正夔とは違う。張衡『東京賦』は大儺儀式を描写する。「飛礫雨散、剛瘅(だん)必斃。煌火馳而星流、逐赤疫于四裔……残夔魖(きょ)と網像、殪野仲而殲遊光」。文中の剛瘅、赤疫、夔と漢代の剛卯銘文は符合する。つまり剛卯銘文中の夔竜は人々が戦い、征服し、馴化しなければならない対象ということだ。
『国語』「魯語下」に言う、「木石の怪いわく夔、蝄蜽」。
『東京賦』李善注に言う、夔の形状は「竜のごとく角あり」。ほかの人は、形状は牛のよう、鼓のよう、独脚(一本足)などと言う。どれも怪異なる悪しき虫(蛇の類)で、一種の精怪である。