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(C)投物激竜(物を投げ入れて竜を激怒させる)
これは竜のいやがるものを深淵に投げ込み、水底にひそむ「怠惰な竜」を激怒させる法術。竜はいきおいよく飛び出し、雲を興し、そこから雨を降らせるだろう。伝説のなかで虎と竜の力は同じくらいだが、互いに譲らない性分なので、争いが起きやすい。
求雨(雨乞い)をする者は、これを根拠に、虎の頭骨を深淵に投げ込む求雨法を考え出した。ためしに虎の骨を淵に投げて挑発すると、「竜虎大戦」が勃発している。坐ったまま風雨が収まるのを待てば利が得られるという寸法である。[強い者同士を戦わせ、漁師は坐ったままで獲物が得られる。いわゆる漁夫の利]
唐代の南中地区[南中は現在の雲南省、貴州省大半と四川省南西など]にこれと似た習俗があった。干ばつがやってくるたび、長縄に虎頭骨を結び付け、神竜が隠れている深い淵に投げ込んだ。聞くところによると、虎の骨は水に入ると激しく揺れ動いたという。岸の上から何人かの頑丈そうな男たちが縄を引っ張ったが、逆に引っ張りまわされてしまった。しばらくすると大きな雲気が淵から立ち昇ってきた。それは上空に昇ったかと思うと、雨水が激しく落ちてきた。
李綽(りしゃく)は『尚書故実』の中でこれに関して評して言う。「竜と虎は(どちらも強く)いい勝負である。枯れ骨となっても激しく動いているだろう」。
明人盧若騰(ろじゃくとう)は『島居随録』巻下の中で言う。「竜が水の中にもぐっていると、虎の頭が投げ入れられる。すると竜の怒りはすさまじく、(虎の骨を外に出そうと)水を掻い出した(それが雨になった)」。彼(盧氏)が依拠しているのは、唐代の虎骨激竜法である。
激竜求雨の儀礼には犬、ブタ、羊の糞と菵草(カズノコグサ)が欠かせなかった。
『尚書故実』が引用する張延賞[唐朝の宰相]の説によると、舒州(じょしゅう)すなわち安徽省安慶市の灊山(けんさん)の麓に九つの泉があった。当地の人は、干ばつの災いが起こったなら、「犬一匹を殺して(泉に)投げ込んだ。すると大雨が降り、犬もまた流れ出た」という、
五代の杜光庭『録異記』巻七に言う。「新康県の西百二十里の漳浦に清らかな潭水が流れていた。この渓流をさかのぼっていくと、源は奥深いところにあり、そこには白竜が棲んでいた。干ばつが発生すると、部下にブタや羊の糞を取りに行かせ、それを潭水に投げ入れさせた。すると大水が出て、洪水までもが発生したほどである。今に至るまで(この法術は)大いに効果がある」。
盧若騰の『島居随録』は、竜の習性でとくに菵草が竜を怒らせると説く。「竜は燕の肉を好む。ゆえにツバメを食べる者は水を渡るのを嫌い、雨を祈る者はツバメを用いる。竜は鉄および菵草、栴檀の葉、五色の糸などをそろえた。また水を鎮める患者は鉄を用い、竜を怒らせるものは菵草を用いた。