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 一般的な禁腫呪法となると、さらに種類は多い。比較的シンプルなものでは、たとえば「一二三四五六七、百腫皆疾出、急急如律令!」(一二三四五六七、百の腫よ、はやく出よ。急いで律令のごとくおこなえ)。

 複雑な呪文となると、「禁天下大腫法」と呼ばれるものは二百字以上になる。まず五方の神に五方の毒気を摂取するよう要請する。ついで五帝の尊と五毒の悪について、そして吹嘘禁法の威力について述べる。この長い呪文の末尾はこうである、


吾禁盤石開、深澗契、天架嶊、地柱折、暁停光、夜星滅、冬変雨、夏積雪、冷腫熱腫速消滅。(我、盤石が開くのを禁じる。奥の渓流で契り、地の柱を折る。暁の光はとまり、夜の星は滅す。冬、雨に変じ、夏、雪が積もる。冷たい腫れも、熱い腫れも、すみやかに消滅する)

急急如律令!(急いで律令のごとくおこなえ)


 喉の腫れの痛みを古くは「喉痺」(こうび)と呼んだ。巫師はこの類の疾病に対し、つねに呪法を用いた。呪文はたとえばつぎのようなものである。


吸喉痺!(吸え、喉痺を)

父喉痺、母喉痺、婦喉痺。(父の喉痺を、母の喉痺を、妻の喉痺を吸え)

孫天生汝時、縁上百草露、誰使汝著人喉里!(汝が生まれるとき、たくさんの草の

露と縁があったであろうに、よりによって人の喉に生まれるとは!)

拘汝牙、折汝歯、破汝頭、破汝脇、神不得動、不得停留、北斗知汝名汲汲。(汝の歯を捕え、折り、汝の頭を割っても、汝の腋を裂いても、神は動かず、留まることもできない。北斗は汝の名が汲汲であると知る)[汲汲は一心に努力すること]

急急如律令!(急いで律令のごとくおこなえ)


 漆中毒になり、体が痒く、顔が腫れることを古くは「漆瘡」と呼んだ。『五十二病方』みは多くの禁漆瘡法や関連した呪詛、唾吹き、汚物駆邪術が記されている。『千金翼方』巻三十には禁漆の呪文が記されている。


漆翼丹盈(しつよくたんえい)、漆翼丹盈、丹為兄、漆為弟、汝不漆杯以(与)盂(う)、乃漆人肌膚。(漆翼丹盈、漆翼丹盈、丹を兄とし、漆を弟とする。汝、盃に漆を塗らず、器に塗る。ないしは人の皮膚に塗る)

刀来割汝、斧来伐汝、汝不疾去、咸塩苦酢唾殺汝。(刀で汝を割き、斧で汝を伐る。汝はすぐには去らない。しょっぱい、苦い、酸っぱい唾で汝を殺す)

急急如律令!(急いで律令のごとくおこなえ)


 呪文から見るに、巫師は「盈」と「翼」という二人の兄弟から成る丹漆の鬼を認識していた。