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<桃木の木偶と桃枝> 

 『枕中方』に言う、「五月五日、東から桃の枝を取り、日が出る前に三寸の木人(木偶)を作る。そして衣と帯を着けると、世の人は言葉の価値を知り、当然のごとく敬愛されるようになる」。施術者は世間の称賛を得るとともに、当然施術者に対する愛慕も増すというのである。説明すべきことは、この医法が一部の医家に誤って解釈され、記憶力増強法とされたことである。

 『千金要方』巻十四「好忘」に記録されている医法とはつぎのようなものだ。「五月五日になるといつも東に伸びた桃の枝を取り、日が出る前に三寸の木人(木偶)を作る。衣や帯を着けると、人に忘れさせない(記憶力がよくなる)」。この忘れっぽいのを治す方法と『枕中方』が述べる致愛法は完全に一致する。「令人不忘」(人に忘れさせない)の四文字は簡単に意味を変えることができる。愛する人に忘れさせない、と読むこともできるのだ。また忘れっぽくさせない、と理解することも可能だ。この方法を「好忘」に入れたところ、誤って逆の意味に解釈された。敦煌の『秘法』には類似した記載があるが、こちらは致愛法(愛のまじない)である。

 『秘法』に言う、「およそ婦人に敬愛してほしければ、子(ね)の日に東南の桃の枝を取り、木人(木偶)を作る。名を書き、厠(かわや)の上に置けば、験あり」。または言う。「およそ婦人のほうから愛してもらいたければ、東南の桃の枝を取り、女性の名を書き、厠(かわや)の上に置けば、たちまち験が得られる」。桃の木偶、桃枝を用いる致愛(愛のまじない)は、術士たちが常日頃用いた法術だった。

 『秘法』に際立っている点は、毎月子(ね)の日に桃枝を切ること、桃の木偶、桃枝に女性の姓名を書くこと、霊物を厠(かわや)の上に置くことだった。これは致愛法(愛のまじない)をまとめた総合的な致愛法術と言える。


 <梧桐(アオギリ)の木偶> 

 『霊奇方』に言う、「庚申の日、梧桐(アオギリ)の東南の根を三寸ほど切り取り、男を克(刻)して作り、五色の彩衣を着せると、相手と相思相愛になる」。これは女性専用の方術である。古代術士は桐木から偶人を作るのを慣例としていた。桐人を懐に隠す致愛(愛のまじない)は、巫蠱術が発展してできたものと考えられる。


<泥と灰塵> 

 漢代『雑禁方』がすでに言及しているように、門の上に泥を五尺平方ほど塗ると、夫婦仲の悪いのが治るという。あるいは正門の左右に泥五尺平方を塗れば、貴人の歓心を買うことができる。

 のちに『枕中方』は言う、「嫁が夫に愛されなければ、床席(ベッド兼椅子)の下の塵を取り、夫に食べさせる。夫に知られてはいけない。すると夫は嫁を敬い愛するようになる」と『如意方』に言う、「履(くつ)の下の土を取って団子を三つ作る。ひそかに椅子の下にそれらを置く。よい結果が得られる」。『霊奇方』に言う、「黄土を取り、酒と混ぜると、それを家の中の戸の下に一寸四方の大きさに塗る。すると年老いるまで互いに愛し合う」。あるいは「かまどの中の黄土を取り、膠(にかわ)と混ぜ、屋上に置き、五日後にそれを取ると、欲する人の衣に塗る。すると相思相愛になる」。どちらも効能のある塵や土を用いているが、こうした観念は迷信的である。敦煌『秘法』にも言う、「およそ夫に愛させたいとき、戸の下の土(泥)を取り、戸の上に、周囲五寸の大きさに塗る。すると夫から畏敬の念で見られるようになる」。これは夫の愛を求める婦女が門の下を掘り、それを泥と混ぜ、そのあと門の上に五寸の幅の泥のかたまりを塗る。