宇宙卵について     宮本神酒男 


 ガンジス川とヤムナー川が交わる聖なる砂洲(サンガム)でおこなわれるマハー・クンブメーラに参加していたとき、私は商人からタマゴ型の黒い石、シャリグラム(Salagrama)を買った。(写真左下)高さ12センチほどの手軽な大きさの聖物だった。

「これは何百万年もガンジスの流れのなかにあり形成された化石であり、シヴァ・リンガでもある」とこれを売っている男は誇らしげに説明した。いぶかしげな顔をしている私に向ってここぞとばかりに男は付け加えた。

「振ってみろ。音がするだろう。何百万年も水が閉じ込められているのだ」

 耳元で振ってみると、たしかに水が入っているようで、かすかにチャプチャプと音が聞こえる。

「そんなのニセモノに決まっているだろう」と言われるかもしれないし、実際私も完全に信じているわけではない。しかしそもそもこれは宇宙の根源の象徴なのであり、いわば仮想現実的な真実なのである。

 メディテーションをするとき、ヘソの前にこのシャリグラムをかかえて持つ。そして宇宙の始源を観想する。宇宙の本質について、存在の意味について考えるとき、それは至上の補助材となるのだ。

               ヒラニヤガルバ(黄金の胚) 

 それから数年後、私は西チベットを旅しているとき、たまたまタマゴ型の大きな(高さ50センチ)石を見つけた。この石があるキュンゴ(ガルダの頭)はパワーを放つ不思議な場所だった。巨岩を改造したような砦が見える位置にくると、何かしら胸元がゾクゾクした。おそらくあたりの岩場に鉄分が多く、山肌が赤かったり、紫がかったりしていたのと関係があるのだろう。実際、ここに来ると磁石の針がくるくると回り始めた。

 この砦の岩の後方にこの私が「宇宙卵」と命名した石があった。簡単に動かせるように見えたが、実際に動かそうとすると、1ミリたりともずれなかった。それに表面をよく見ると、普通の石とはかなり違っていた。表面の割れ方がタマゴっぽいのである。以前私は(水木しげる氏に)頼まれて香港で「恐竜の卵の化石」を買い、しばらく手元において眺めていたことがある。それがただの石と違うのは、鶏卵とおなじようにひびが入り(この宇宙卵にひびは入っていない)、表面が独特の仕方で割れることだった。表面の割れ方が恐竜の卵と似ているのである。

 それに3つの連なる点や模様(文字? 星座?)が刻まれているように見えるのも興味深かった。もちろんこうしたものは自然現象で説明できるかもしれないし、人が手を加えた可能性も否定できないだろう。しかしこれも古代人が一種のシャリグラムとみなしたのではなかろうか。


                 シャリグラム 

 ではこの古代人とはだれなのか。サラグラマやヒラニヤガルバ(黄金の胚)という概念をもつのはインド人である。ここはチベットのラサから遠いが(カイラス山からはそんなに遠くない)南の方向、山の向こう側はヒンドゥの聖地バドリナートなのである。シャリグラムが水のなかで形成されたのなら、この宇宙卵は風によって形成された「風の卵」なのかもしれない。

 もちろん古代シャンシュン国の存在を信じる私としては、この宇宙卵を崇めたのはシャンシュン人であると思いたい。シャンシュン人が信仰したボン教の宇宙開闢神話においても、タマゴは宇宙創世において重要な役割を持っているのだ。(ボン教の宇宙開闢神話については別項を参照)


 インドの古典である『チャンドーギャ・ウパニシャド』の宇宙卵神話をこの短文に追加しておきたい。

まずはじめにこの世界は非ー存在にすぎなかった 

それは存在した。そして発展した。それは卵(アンダ)になった 

それは一年のあいだ置かれた。そしてそれは真っ二つに割れた 

二つの卵の殻のうちひとつは銀で、もうひとつは金だった 

銀の殻は大地になった 

金の殻は空になった 

外側の膜は山々になった 

内側の膜は雲と霧になった 

血管は川になった 

体液は海になった