<いとしい死者> 

 サーウィンのイヴにようこそ。今夜、精霊たちは歩き回り、生者の国から向こう側へ行ったいとしい死者たちがふたたび戻ってきます。

 

 あなたは明るい月夜、丈の高い草むらのなかを歩いています。空気はひんやりしていますが、寒くはありません。羽織った軽いジャケットがとても着心地よく感じられます。頭上には星々が現れ、夜の帳(とばり)にきらめいています。どこか近くでフクロウが鳴いています。甘い土と死にゆく落ち葉の匂いがあなたの嗅覚をとらえます。豊かな秋の匂いは冬が差し迫っていることを思い起こさせます。

 緩やかな坂道を下っていくと、小道に出ます。この小道は野原の中をうねりながらつづいています。まもなくして、波が打ち寄せる音が前のほうから聞こえてきます。しだいに草がなくなっていって、あなたは大きな霧のかかった湖のだだっ広い浜辺にたどりつきます。頭上の満月の銀色がかった光が踊る霧を照らし出します。そして亡霊の指があなたの肌を撫で、ひんやりした露のしずくを残します。あなたはたっぷりと時間を使って、押し寄せる波と鬼ごっこをしながら、波打ち際を歩きます。月に色彩を奪われながら、砂の中できらめく小石のひとつをあなたは取り上げ、表面をじっくりと見てみます。青白い光を放ってキラキラ輝いているのは雲母です。子供のように衝動的に、あなたは小石を霧深い湖面へ投げます。ドボンという水の音を期待して待っていたけど、聞こえません。小石は水面に静かな波紋を作るけれど、音は立たないのです。そのかわりにあなたが聞くのは小さなつぶやきです。千人が歌っているようなささやきなのです。霧は渦巻き、きらめき、変身し、繊細な模様を成して動いています。そして濃霧のなかに影が現れ、白のダンスの先駆けとなります。あなたはつぎに何が現れるのか確信を持てずにいるのですが、あとずさりをはじめます。目に見えないコーラスの音がしだいに大きくなります。あなたは自分の名前が歌われているのを耳にします。「水」と「地」の間の空間が聖なる場所であることをあなたは理解し始めます。それは魔術と意味の境界なのです。今夜はサーウィンの夜です。霞は二つの世界の間の帳(とばり)なのです。そして帳(とばり)は上がるのです。

 

 あなたは自分を呼んでいるのが誰か、懸命に突き止めようとしながら、ふたたび前に足を踏み出します。「サマーランド」から彼らは滑空しながら、歩きながら、走りながらやってきます。手を広げ、顔を輝かせながら、霧に中を抜けて、渦巻く帳(とばり)をかき分けながら、いとしき死者たちはこの地に踏み入るのです。写真でしか知らない多くの顔がいま、あなたの目の前にいます。腕を広げ、彼らをキスで迎えてください。彼らの名前を心が愛で熱くなるほど大きな声で呼んでください。いとしい死者たちを抱いて、人間や獣たちと同様、あなたは喜びに包まれます。しばらくの間、いとしい者たちといっしょにすごしてください。話して、触れて、思い出を語り合い、記憶にとどめてください。

(彼らに3分から5分の時間を与えてください。その間、軽い鈴を揺らすか、ガラガラをやさしく振ってください)

 あなたは空気の変化を感じ始めます。それはしだいに濃くなり、またサーっと引いていくのです。いとしい者たちとの時間は終わろうとしています。もう彼らは帳(とばり)の向こうの国へ帰らなければなりません。最後の抱擁のあと、あなたの目には霧が出てきたようです。友人や家族が湖の端へと移動していき、動く霧に呑まれていくさまをあなたは見ながら、見送ることになります。最後の影が消えていくと、あなたは踵を返し、浜辺を歩いて葦の合間の道に達し、あなた自身のもとへ戻っていきます。

 

 


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