すべての猫の母、バステト 

私は猫のなかに、永遠に変わらぬ官能的な魂をもった女を見る 
                              ジャコモ・カサノヴァ 

 

 バステトは豊穣、母性、性、愛、音楽の神といわれます。バステトのもっとも人気のある像といえば、篭かシストラム(エジプトの聖なる楽器)をもち、体にぴったりの、長い緑色の上衣を着た猫頭の女です。彼女の足元には何匹かの子猫が遊んでいることがありますが、それは母性と関わりがあることを示すものです。彼女は黒猫として描かれることが多く、したがって黒猫は聖なる存在なのです。

 ある神話によればバステトは太陽神ラーの娘です。そしてアムンの長女ともいわれるイシスは魔術の女神です。バステトはプタハ神と結婚し、昇る太陽のやわらかな光とむすびつき、「東方の淑女」と呼ばれました。バステトは太陽の女神と目されるようになったのです。月の満ち欠けと関係づけられるようになるのはずっとのちのことでした。彼女の名前にはバリエーションがあり、ウバステト、パシュトなどが含まれます。*英語名はバスト(Bast)。

 この猫神の聖なる都市はブバスティスです。赤い御影石からできているといわれるバステトの聖なる寺院は、緑におおわれた豪華な森でした。この森のなかにバステトの祠堂がありました。ブバスティスの寺院は多くの猫の家でもありました。寺院猫は女神の顕現としてふさわしいように、宝石で飾られ、大事に扱われました。

 この聖域は猫崇拝文化における重要なポイントです。それは寺院猫を満足させるだけでなく、一般民衆の猫にとっての最終の安住の地でもありました。何千匹ものかわいがられた猫たちがブバスティスの寺院に葬られました。このもっとも聖なる場所に安全に憩う愛されたペットたちは、飼い主の祈りが神に届くよう助けてくれると信じられました。1887年、エドゥアード・ネイヴィルという考古学者はブバスティスの寺院跡を発掘し、王室の祠堂だけでなく、寺院の本堂やミイラ化された猫のカタコームを発見しました。このことからエジプトのファラオでさえ猫を崇拝していたことがわかったのです。

 

 バステトははじめ、獰猛な姉妹のセクメトに似たライオン頭の女神だったという仮説があります。時間がたつにしたがい、バステトはやさしい猫科に変化していき、愛される飼いならされた猫に似た特徴をもつにいたりました。バステトはおとなしく、愛すべき性格の持ち主でした。しかし自分の子どもを守るときは激しい性格を帯びます。彼女をなだめるために、あなたは相当な努力をしなければならないのです。バステトは暗い一面をもっていました。この面において彼女はパシュト(パケト)と呼ばれます。パシュトはどういう姿をしていたのでしょうか。たとえば、若さを守ろうとする雌ライオンの姿を想像してみましょう。そして興味深い可能性として翼をもつものとして描いてみましょう。この物語は、鷹匠として描かれることのあるホルスと関連があります。バステトは猫頭をもったハヤブサか、翼を広げた堂々とした猫として描かれることもあります。

 エジプト人のあいだで絶大な人気を誇ったバステトの春の祭りは四月中旬におこなわれました。何千人もの人々がパレードのような雰囲気のなか、歌ったり、奏でたり、踊ったり、パーティを催したりしながら練り歩いたといわれます。マルディグラ(謝肉祭最終日)のようなものでしょうか? 祭りに関する記述のひとつによれば、歴史家ヘロドトスはこの祭りで女たちが衣服を頭から脱ぎ捨て、通行人に見せびらかすのを見てショックを覚えたといいます。バステトの信仰者はこの祭りのときによい時間をすごすことができたといいます。

 もしあなたがバステトの魔術をおこないたいなら、彼女を呼んで子宝のこと、妊娠に関して助けを求め、あなたの性的能力を高めるよう求めるといいでしょう。


⇒ つぎ