ヒマラヤでシャーマンになろう

 シャーマニズムを研究する者なら誰でも一度は自らシャーマンになりたいと願ったことがあるだろう。実際、ネパールのタマン族地区に足繁く通い、ボンボと呼ばれるシャーマンを調査するうち本当にシャーマンになってしまった米国の学者がいるのだ。しかしそこまで入れ込まなくても、神憑かりだけなら、思いのほか簡単に体験できる。ボンボは患者を診るとき、患者にトランスをかけ、病を起している魔物を呼び出す。これを応用すれば、我々もいわば患者となってトランスを得るはずである。
 数年前、私はついに自らシャーマン体験をする絶好の機会を得た。場所はネパール・ヒマラヤ中央部、ランタン・トレッキングの起点となるタマン族の村だった。齢四十ほどの髭の濃いボンボは薄暗い自室の壁際に祭壇を作り、私と友人のT君を背後に従えるように壁面して座る。私には生卵が、T君には木彫りのリンガ(ブルバ)が渡された。もちろん女性と男性のシンボルである。ボンボは半時間ほどマントラを唱え、鈴を鳴らしたあと、太鼓を打ち始めた。わが身体は小刻みに震えはじめ、一方意識は宇宙の大空間のなかに溶けだしていった。魂と宇宙の合一とはこういうものなのか。と、至福にいたる寸前、となりのT君が神憑かったまま暴れだした。見ると、まるで巨大なイチモツを持ち上げ、虚空に向かってズッコンズッコンと搗くかのような動作をしているのだ! 眺めていた村人たち(いつのまにか集っていた)の間に大爆笑が沸き起こり、私はすっかり興ざめしてしまった。
 この試みはT君のために惨憺たる結果に終わったが、つぎの機会には果てしない宇宙空間を飛翔し、神と合一することができるだろう。みなさん、結構簡単です。いっしょにヒマラヤへ行ってシャーマン体験をしてみませんか。