行け、アルタイへ

 『シャーマニズム』の著者エリアーデが喜んでくれそうなシャーマン的な夢を見たことがある。夢の中で私は深い鍋の中に放り込まれ、四肢はばらばらになり、ぐつぐつと煮込まれた。「死と再生」を暗示するイニシエーション的な夢だ。かき混ぜられながら私は威厳のある声を聞いた。
「アルタイへ行け」。

 私は本当にアルタイへ行ったのである。アルタイといえばシベリアのイメージが強いが、じつはロシア、カザフスタン、モンゴル、そして中国にまたがっていた。私はなじみのある中国新疆のアルタイをめざした。飛行機でウルムチへ飛び、そこから夜行バスに乗ってジュンガル盆地を越え、阿勒泰(アルタイ)市に到着。そこで信じられないほどポンコツのジープをチャーター。10分ごとにエンストを起こすありさまで、夜半になっても最深部のハナス湖に着かない。手前の峠で湿地帯にタイヤを取られ、仕方なく近くにあったゲル(テント)の人々を起こし助けを求めた。奥に寝ていたのがシャーマン兼チベット仏教の在家僧のモンゴル人であることを私は翌日知ることになる。

 シャーマン僧は巡回医師のようなものだった。馬に乗ってゲルからゲルへと回り、からだの調子の悪い人がいればタダで簡単な治療儀礼をおこなう。米国の精神科医のようなもので、こういう存在は非常にありがたいのではないかと思う。

 意気込んだわりには小物感を否めなかったが、アルタイはシャーマニズムの宝庫であり、何か尋常な場所ではない。アルタイはモンゴル語で金山を意味する。実際金が採れるのだが、霊的な資源もまたこの地域で採れるにちがいない。