いまに生きる錬金術 宮本神酒男

 先日、自室の天井から(おそらく高い棚から)硬くて小粒の銀球のようなものが落ちてきて、後頭部に当たった。拾い上げると、なくなったものとばかり思っていた錬金術の金の玉だった! 
 錬金術といえば、古代の伝説的錬金術師ヘルメス・トリスメギストスやルネサンス期のパラケルススなどを私は思い浮かべる。「賢者の石」を媒介とし、卑金属から金を生み出す近代化学以前の魔術のことである。

 驚くべきことに、ミャンマーでは今も各地で、とくにパゴダ(仏教寺院)で、金が作られているのだ。私自身、金の精製の現場に遭遇したことがある。パゴダ内の作業場で上半身裸の男の人が汗だくになりながら、小さな炉のなかでなにかを高熱で燃やしていた。
「何をなさっているのですか」。
「ダッロンという金を作っているんです」。
 正直なところ、こんな聖なる場所でインチキめいた(失礼)ものを作っているとは思いもよらず、それ以上の質問をすることを忘れてしまった。
 自分の部屋で落ちてきた金の玉は、そのとき入手したものだった。いまそれを掌にのせて眺めても、安っぽいカフスボタンみたいで、ありがたさはまったく感じない。これをどうしたら金と呼べるのか。
 いろいろと調べてみると、ダッ(火、風、土、水の四元素)が含まれる七つの基本金属(七つの惑星に相当)を組み合わせて金(ダッロン)を作るのだという。もともと長寿祈願のために作られていたが、現在はおもに蛇や魔物、悪霊から身を守る護符として使われる。できあがった効験あらたかなものを金と呼ぶのだということがわかってきた。

 伝説によれば、このダッロンを服用することによって、人はゾージー(仙人)になることができる。服用した人は七日間仮死状態に陥る。その間彼の身体は弟子によって地中に埋められるが、七日間の間に外気に接すると、生き返れなくなってしまうという。
 すでに述べたように、タウンビョン兄弟の父親にあたるビャッタと兄弟のビャッウィは、芳香を漂わすゾージーの遺体を食べたことにより、スーパーパワーを会得する。ビャッタ兄弟が食べたゾージーは、七日間の仮死状態にあったのかもしれない。
 現代において錬金術がどの程度信じられているか、さだかではない。しかし少なくともこれが護符の役目を持っていることはだれも否定できないだろう。
空を飛んだり地中をもぐったりできると考える人は少ないにせよ、これを持っているとケガもなく、長生きし、裕福になれるとだれもが信じているだろう。