癒しなのか、いやしいのか

ストーブの前でくつろぐ普段の表情のラモ

 オンマニペメフム……。家の中の祭壇の前に座り、小林幸子似のペマ・ラモという名のラモ(神女の意。祈祷師)は真言を唱え始めた。ここは真冬のインド西北ラダック、チョクラムサル村。室内にはいつのまにか客、いや患者が増えていた。
 ラモは一瞬、席をはずす。一分後、戻ってくる。
 キエエエッ! ギャッ! そんな狂女のような叫び声を発しながら戻ってきたのだ。 オンマニペメフム、オンマニペメフム、グエッ! 五仏冠をつけた頭を振り回し、でんでん太鼓をテケテケテケと鳴らし、祈祷文を早口に読み上げる。
 しばらくして治療をはじめる。最初の患者は出稼ぎのネパール人男性。目が悪いという。ラモは左手で男のまぶたをこじあけ、右手に持った短刀を振りかざす。男は恐怖におののいている。つぎの患者はチベット仏教の若いお坊さん。症状を聞いたラモは突如お坊さんの首と胸のあいだに顔を埋め、吸い付いた。チュパチュパと吸ううち、お坊さんの表情がしだいに恍惚としてくるのである。なんとふしだらな! 十分吸ったあと、彼女は床に置いていた器にペッとなにかを吐き出した。病気を起していた原因物質が吐き出されたということなのだ。
 二時間にわたる治療活動が終わり、部屋の中でくつろいでいると、可愛らしいラモのふたりの娘(八歳と十五歳)が恥ずかしそうに紙になにか書いて差し出した。そこには「スポンサーになって」と英文で記されていた。謝礼として500ルピーも渡したため、足長おじさんに見えたのだろうか。それとも訪ねてきた外国人にはすべておなじことを言っているのだろうか。ラモのパフォーマンスをつぶさに見ることができ、感謝と慈愛の念を抱きながらも、なにかすっきりしない心境になり、家をあとにしたのである。