5 卜占型(円光型) 

 チベット語でタケン(pra mkhan, pra phab ba)というのは円光占いをする者という意味である。円光というのは、もともとシャーマンや神降ろしが用いる卜占の方法。マントラを唱え、銅鏡や光るもの(親指の爪でもいい)を用いて彼らはすべてを知ることができるのだ。

 円光者の目と普通の人の目は違うという。銅鏡の上に彼らは普通の人には見えない像や文字を見ることができる。この円光の方法を応用することによって、彼らは銅鏡のなかにケサル王物語の抄本を見ることができるのだ。

 筆者が会ったことのある円光詩人はただひとりだった。チャムド地区のリウォチェ県のカザ・ダパ・ガワン・ギャツォ(1913− )である。

 彼は庶民のあいだでとても人気があった。というのも、銅鏡に映るケサル王物語を読むだけでなく、銅鏡を通じて算命術や占いによって吉兆を占ったからだった。旧社会においては、地方政府の幹部からも重用されたようである。人々は重大な局面になると彼に占ってもらったので、その影響はなお広範囲に残っているのだ。数年来、彼はケサル王物語11巻を写した。そのなかには1987年に西蔵人民出版社から出版された『ディガル』も含まれていた。

 このタイプに感じられる神秘的色彩は、チベットの原始的な観念や崇拝と関連があるだろう。過去にはこのタイプのケサル詩人もまれではなかったが、新中国成立後は姿をほとんど見なくなってしまった。しかし円光形式であることを置いといて、彼が写したケサル王物語を見てほしい。だれもが感嘆せずにはいられないだろう。チャムドの有名な学者であるペマ・ドルジェもまた、彼の写本の水準がきわめて高く、文学の造詣が非常に深いことが感じられると述べ、その韻文を創る能力も評価しているのだった。