ケサル王の戦士の歌 ダグラス・J・ペニック (宮本神酒男訳)


前言 サキョン・ミパム・リンポチェ 

 ダグラス・ペニックはわが父、故チョギャム・トゥルンパの長年にわたる生徒であり、同様に私のよき友人である。私はずっと彼の友情、知性、そしてずばぬけたユーモアのセンスを評価してきた。

 彼の著書『ケサル王の戦士の歌』において、ダグラスが息を吹き込んだリンのケサル物語の特性は、何世紀にもわたってチベット人に愛され、抱擁されてきた、あふれる活気と予想外の筋の展開だろう。

 あきらかになったのは、ケサルと彼の生涯の叙事詩は、たんなる寓話や歴史ドキュメントではなく、チベットの生命力や活力を体現しているということである。リンのケサル物語は、とくに西側諸国にその名声が広がって以来、チベット人にとってだけでなく、人類全体にとっても、さまざまな意味合いをもつようになった。

 ケサルはわれわれにとって夢のような存在だ。信じられないほど厄介なことに出会っても、それを克服する望みをもつこと、勝利者でありながら同時に思いやりをもつこと、巨大な身体をもっていても、道路のわきの小さな石に気づくこと、そういったことのできる存在である。

 ダグラスは知恵、想像力、ユーモアをケサルの物語に持ち込み、その存在を活力あるものにした。それは確信をより高めることになった。

 ケサル王の存在が人類を鼓舞し、戦争を超越したひとつの勝利の旗のもとへといざなうことを願う。