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 人々の視界から消えると、ケサルはキャンゴ・カルカルを駆り立て、天高く飛翔し、ティルティカ(外道)の領域奥深くの山頂へと達した。ケサルはそこに「輝く日照の洞窟」と呼ばれる水晶洞窟を発見した。ケサルは愛馬を近くにつなぎ、ヴァジュラ・キラヤと四手マハーカーラの教えに従って2か月間瞑想修行をした。

 ティルティカの神は、好奇心から、あるいは煩わしく思って、はたまた楽しんでいるのか、またはプライドのためか、洞窟の中のケサルの前に現れた。彼は生き生きとした巨大な体躯の持ち主で、全身白い灰に覆われ、輝く黒い髪は川の王様とでもいうように、荒々しく流れ落ちていた。彼はドクロの首飾り以外は素っ裸で、でんでん太鼓や銅鑼を鳴らす恐ろしい面構えの数千の魔物たちを従えていた。彼は奇跡的な意識の本性そのものだった。彼の笑いは至福であり、言葉は光であり、踊りは魅惑的だった。彼は苦労を要さず人を陶酔させる力を持っていた。

 ケサルは目がまわり、耳が聞こえなくなり、肌はひりひりし、感覚器官は圧迫される一方で、心臓はほとんど静止しそうだった。それから彼の腕は、まるでそれ自体が意思を持っているかのように、突然水晶剣を引いた。剣の先が天空に触れて震えると、ケサルは言いようのないほどの喜びに満たされた。

 空と剣の先が交わったところは、豊かで壮麗な黒い点に見えた。それは血やミルク、リクデン(シャンバラ王)のインクほどの「よい質」をそなえていた。それは人間界の夏の夜のように濃密で、芳香を放っていた。すみきった、輝く空のもと、この相対的真実の黒点は、概念から解き放たれ、独立した絶対的存在の信仰を破壊した。神の心臓は射抜かれ、ケサルの剣先が震えると、黒点は鉄の輪となった。

 リンの国王ケサルはその瞬間、いままで引いたすべての剣の、いままで射たすべての弓の、いままで掲げたすべての笏(しゃく)の、いままでかぶったすべての冠のパワーぞrを感じた。いままで下したすべての命令の、いままで発したすべての法令の強さが彼の血管のなかを流れていた。彼の肉、血、骨からできた身体そのものが先祖の王権を切望したカミソリの刃である。

 彼は立ちあがると、世界というテントの柱となった。彼の脚は地上のすべてをカバーし、彼の兜に挿された旗は天蓋を飛翔する。

 神は青ざめ、彼自身の領域へと帰って行った。