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 ティルティカの最後の破壊がはじまろうとしていた。薬を詰めた俵はうず高く積まれ、壁の高さに達しようとしていた。門はすでに封鎖されていた。そしてルンジャク・ナクポと家臣たちは中で待っていた。

 ケサルは4人の傑出した戦士を送った。彼自身の身体からそっくりの戦士が生まれた。彼は虎によって区別され、東門を守った。彼の言葉からそっくりの戦士が生まれた。獅子によって毛別される彼は北門を守った。彼の心からそっくりの戦士が生まれた。ガルダによって区別される彼は西門を守った。彼の行動からそっくりの戦士が生まれた。竜によって区別される彼は南門を守った。

 これらの戦士は偉大なるダラ戦神の分かちがたい身体、言葉、心だった。リンのケサルは唱和した。

 

ル・タ・ラ・ラ・ア・ラ・ラ・ラ・タ・ラ・ラ 

リクデンの父たちよ、

守護者の主よ、戦士よ 

どうか親切ぶりを見せてください 

私の言うことを聞いてください 

私と一緒にいてください 

あなたの願いで私を祝福してください 

今日私はティルティカ城を取りましょう 

私はあなたの息子であるかのように行動しましょう 

私はあなたを呼びます 

おお、戦士の父たちよ 

キ・キ・キ・ラ、ブ・スワ、キ・キ・キ・ラ 

私は天界の平和的な白い神を呼びましょう 

キ・リ・リ 

あなたの兜と甲冑は白い水晶でできている 

あなたは月光の色の馬に乗る 

あなたの右手には水晶の矢 

あなたの左手には水晶の弓 

あなたの右手には長寿の矢 

あなたの左手には槍 

あなたの右腕には虎のたてがみ 

あなたの左腕には斑(まだら)模様の豹の皮 

あなたの馬の尾は吹雪のように巻いている 

あなたの輝く白い光はあまねく満ちている 

チャオ・チャオ・チャオ 

ティルティカと天界とのつながりを断て 

宇宙の風によってそれらを吹き飛ばし地面にたたきつぶせ 

私は地球の領域の恐れを知らない黄金の神を呼ぼう 

ソ・リ・リ・ソ 

あなたは黄金の兜と甲冑を着けて黄金の玉座に坐る 

あなたが右手に持つ矢も左手に持つ弓も黄金である 

あなたの右手には長寿の矢、左手には槍 

あなたの右腕には虎のたてがみ、左腕には斑模様の豹の皮 

あなたの前の黄金の駿馬の鼻から煙が巻き起こる 

チャオ・チャオ・チャオ 

地上から邪悪なものが生存できる場所をなくそう 

山を彼らの上に建てよう 

空の下に彼らを押し込めよう 

大地や海の謎めいたトルコ石の神を呼ぼう 

チャ・リ・リ 

あなたはトルコ石の兜と甲冑を着けてトルコ石の玉座に坐る 

あなたの矢、弓、長寿の矢と槍もトルコ石である 

あなたの右腕と左腕には虎のたてがみと豹の皮 

あなたのさかまく海のように青い馬が目の前で躍動する 

チャオ・チャオ・チャオ 

大地や海の下から炎を扇げ 

地上の腐敗者を焼き尽くせ 

灰も残らないほど 


 

ティルティカ城の人々は、この歌をたんなるメロディと歌詞とは思わず、あたかも剣の先が鼓膜を貫き、脳みその中央まで押し込まれたかのように、耐えきれない鋭い痛みととらえた。それから順繰りに、それぞれの戦士が歌いはじめた。はじめに東門で虎の戦士が歌った。

 

憎悪の燃える舌の東門で 

おお智慧よ 

火をつけよ 

誕生の痛みを終わらせよ 


 

 彼が歌っている間にも、東の城壁は炎に包まれた。彼らが焼き焦がされているとき、ティルティカの人々は、空から強風に圧迫され、大地からも上方向に押され、圧力を受けた彼らは耳や鼻から血を流した。ほとんどの人はその場で動けなくなったが、一部は北側になんとか逃げることができた。

 北門では獅子の戦士が歌った。

 

妬みの黒い風の北門で 

おお智慧よ 

火をつけよ 

老年の痛みを終わらせよ 


 

 北の城壁は、いまや火の塔となった。なんとか逃れた人もいたが、より多くの人は風、地、火がいっしょになった強烈な一撃を受けて、叫び、のたうちまわりながら死んでいった。

 西門ではガルダの戦士が歌った。

 

渦巻く欲望の西塔で 

おお智慧よ 

火をつけよ 

病の痛みを終わらせよ 


 

 そして西の城壁は火の壁となり、恐怖の竜巻の凶暴性は抑えきれないものとなった。咆哮するような風に脳みそまで焼かれて殺される者もあったが、なんとか這って逃げ出し、血糊で滑りやすくなった岩の多い場所にたどりついた者もいた。多くの血が流れ、その下には血の盆地ができていた。

 南門では竜の戦士が歌った。

 

高慢さの強烈な洞窟がある南塔で 

おお智慧よ 

火をつけよ 

死の痛みを終わらせよ 


 

 南の城壁は炎に包まれて崩壊した。そしてティルティカ城と呼ばれたものがあったところには炎しかなかった。ルンジャク・ナクポと何人かは生き残ったもののほとんど発狂していた。彼らの現実感は根絶やしになった。残ったとしてもそれは苦痛だけだった。彼らの叫び声は幻のようで、声にすらならないこともあった。彼らの血は沸騰して気化し、すさまじい熱のなかで破裂した。

 炎は依然として立ち昇り、人々は叫び、要塞のなかでかき混ぜられた。ケサルは鷲の一群を呼び、炎の中から薬の宝をつかみ出させ、それを遠くリンの王宮の屋根の上に置かせた。

 そしてティルティカ城が崩壊するというとき、キャンゴ・カルカルは本来の姿に戻り、パドマ・チューツォをケサルが待つ輝ける水晶洞窟まで運んだ。彼らは三日間そこで瞑想をして過ごし、そのあとケサルは去り、彼女は残った。

 このように、彼ら自身の怒りの風、彼ら自身の傲慢の地、彼ら自身の欲望の炎がルンジャク・ナクポやティルティカの人々を破壊したのだった。しかし戦士の歌によって導かれた彼らの意識は、彼らが解放されたことを認識し、妨げられることなく宇宙に溶けていった。こうして四大元素は落ち着き、4つの化身の戦士はケサルのもとに戻っていった。