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 6か月後、ケサルはリンに戻った。セチャン・ドゥクモ、母、貴族、戦士、リンの庶民たちはみなケサルの帰還を喜んだ。そして盛大な祝いの宴会が開かれた。夜も昼も宴はつづき、ケサルもついに今回の出征について語った。

 しかしこそこそと文句をつぶやいていたのが、くたくたのさえない古着を着ているトドンだった。つぶやきはだんだん大声になっていった。

「おい、てめえ! ほんとに言っていることが真実なら、だらだら歩き回っただけじゃないっていうのなら、この国の年長者が、まあわしもそのひとりだが、国の富のおこぼれにあずかってもいいだろ。もしほんとにおまえさんが立派なことを成し遂げたというのなら、どこにその証拠とやらがあるんだね? 言葉だけじゃ飯は食えんよ。なんか証拠を見せてくれんと納得できんね!」

 ケサルはトドンが口にしているということは、ほかのみなも心の中でおなじことをおもっているにちがいないと考えた。そこでケサルは人々を王宮に連れていった。

そこには尊い薬が入った俵が大量に置かれていた。また彼の蔵書室に並べられた膨大な仏典を見せた。彼らはすこしでも疑いの心を持ってしまったことを申し訳なく思った。

 トドンにとってはまたも恥をかくことになってしまった。みなが喜んでいるときも、彼のケサルにたいする憎悪は増していった。

 祝宴が終わったとき、瞑想をつづけるためにケサルは庵室にもどった。彼の運命と人間界の運命は分けがたかった。