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魔王たちに勝つためには、

あなたは彼らの生まれ持った妄想をかき乱さなければならない。 

つまり彼らを支える奇怪な見かけと 

本当の姿を分離するのである。 

魔王たちを愛し、助言をし、信奉する人々から分離し、 

生まれ持った欲望をかき乱さなければならない。 

間違った希望や恐怖は、やる気を麻痺させるだろう。 

このようにして、彼らは過去、現在、未来とのつながりを失う。

このときから彼らは追い立てられ、破滅の道を歩むだろう。

彼らが破滅するとき、

あなたはようやく武具を使わずにすむことになる。 

恐れを知らぬ偉大な友人よ、

しかしあなたの人生には慰めも気休めもやって来ないだろう。

戦争状態はいつまでも終わらないだろう。

何度も何度もあなたは奮起し、立ち上がることだろう。

何度も何度もあなたは自己の規律に従わねばならないだろう。

何度も何度もあなたは自分の尊厳を確認せねばならないだろう。

あなたは虎、獅子、ガルダ、竜の勝利の旗を揚げねばならない。

魔物の征服は何度も何度もおこなわなければならない。

あなたは尽きないインスピレーションのしるし、

偉大なる東の太陽の全勝利の旗を守らなければならない。

これが人間界という混乱の汚濁の海における唯一の道である。

これが唯一の例であり、

唯一の達成であり、

唯一の喜びであり、

唯一の栄光である。

これが結果に頼らない真の戦士精神である。

これがあなたの永遠の王国の持続的真実である。

リンの獅子王であるあなたがこのようにふるまうので、

あなたはあらゆる人の心に明かりをともし続ける、

尽きることのない、すべてを費やすたいまつである。

恐怖、疑い、狂気という黒い苦痛のなかでさえ、

あなたの名前の言及そのものによって

人間の尊厳が取り戻されるだろう。

 

 これらマネネのメロディアスな歌の言葉を聞くことができたのは、ケサルただひとりだった。彼女が月明りの橋を上っていったとき、心にぽっかりと穴が開いたようで、彼の目には涙が浮かんだ。

 翌朝、最初の光が射すと、ケサルは鎧兜(よろいかぶと)をしっかりとつけて、愛馬を呼び、長い出征の準備をした。彼はリンの人々を召喚し、いま、リンの国をより安全にするために、北方の十二の首をもつ悪魔のルツェンを倒しにいかなければならない、と告げた。

 以前にも彼が長い間留守をしていたことをみな覚えていたので、妻や大臣たち、将軍たち、戦士たちは彼にすぐ戻ってくるように頼んだ。とくに彼の妻セチャン・ドゥクモはリンの人々に災いが起こるような予感を持ったので、旅を短くするよう懇願した。というのも、長い不在は王国の没落を招くと恐れたからだった。ケサルは彼らの要望にこたえる約束をすると、愛馬にまたがって空を駆けていった。彼は振り返ることはなかったが、心の中に悲しみの痛みを感じていた。