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 戦争は終結した。山の下の宝庫に隠されたシンティ王の宝物はリンの所有物となった。リンに戻ったケサルはシンティ王の娘をトドンの息子に娶(めあわ)せた。そしてすべての人が参加する勝利の宴が催された。踊り子たちは「比較と絶対は分かれず」という踊りを踊った。

 夜遅く、したたか酔っぱらったケサルは歌った。

 

鋼(はがね)の剣が冷たい宙(そら)を切るとき 

思考は非思考である。 

公主メトク・ラツェが燃える宙に飛び込むとき 

思考は非思考である。 

私がリンの黄金の玉座に坐るとき 

思考は非思考である。 

適切な敬意があるとき 

忠誠があるとき 

身体、言葉、心の修練があるとき 

そしてすべての行動がすべての善のためのとき 

思考は非思考である。 

戦士が4種類の優雅さを示すとき 

4人の魔神が自発的に滅びるとき 

そしてこの世界の善性が太陽のように輝くのは 

思考が非思考だからである。 

わが愛する戦士の兄弟たちよ 

行動が痛みを土台としていないとき 

有利か不利か、将来の目標は何かについて 

計算づくでないとき 

このあるがままの世界から逃げるのをやめたとき 

もはや心配することは何もない。 

しかし実際は心配することだらけ。 

智慧があるからといって 

行動やその結果が読めるわけではない。 

申し分のない戦士が 

うわべの必要性と踊るとき 

智慧は自由に恒常的に湧き上がる。 

それは思考でも非思考でもない。 

リンの偉大なる者たちよ 

あなたがたはすばらしく、勇気があり 

鷹揚で、慈しみの心があった。 

あなたがたの行動で世界は変わった。 

すべてにおいて感謝したい。 

 

 歌い終わると、竜の王ケサルは自分のテントに戻ろうとして立ち上がった。玉座から降りるとき、彼は少しよろけてしまった。セチャン・ドゥクモが駆け寄って彼の腕を取って支え、戦士たちは心配そうな顔をしていたが、ほかの者たちは笑みを浮かべていた。偉大なる英雄に人間的なところが垣間見えて、彼らの心に喜びと悲しみがないまぜになった複雑な感情が生じた。