知恵のハディース物語 宮本神酒男・訳 

ヤシャル・ガンデミル(トルコ)『子供のための40のハディース物語』より 

(ハディースとは、イスラム教預言者ムハンマドの言行録)

 

 

 ある日狩人は、川の畔に網を設置しました。置いた麦粒におびきよせられてやってきた数多くの鳥が罠にひっかかり、網の中にからまりました。狩人が網を回収しにやってくると、突然鳥たちは網ごと上空に舞い上がりました。

 驚いたことには、鳥たちは協力しあい、共調し、バランスよく網を持ちあげたまま飛んで行ったのです。彼はこのあとどうなるか興味深く思い、鳥たちについていくことにしました。

 鳥のあとを追って走ると、ひとりの男と会いました。男は狩人に、そんなに急いでどこへ行くんだい、とたずねました。

 狩人は上空の鳥の群れを指して、あの鳥たちを捕まえるのさ、とこたえました。

 男は笑って言いました。

「なんてこった! 考えてもみろよ、飛んでいる鳥を捕まえられるわけがないだろう」

 狩人はこたえました。

「そりゃ網の中に一羽だけなら捕まえられないさ。でもたくさんいるからね。まあ、見ていてごらん」

 狩人の勘は当たっていました。夜のとばりが降りると、鳥たちはみなそれぞれの巣に戻りたいと考えるようになりました。森に向かいたいと思う鳥もいれば、湖の方向へ行きたい鳥も、山へ急ぎたい鳥も、また藪に入りたい鳥もいました。だれもが自分の行きたい方向へ群れを持っていこうとしたのですが、てんてんばらばらでうまくいかず、ついには網ごと地上に墜落してしまいました。狩人はそこへやってきて、簡単に鳥たちを捕まえることができました。

 なんというあわれな鳥たちでしょう! もしわれらの予言者の言葉を知っていたなら、彼らはつねに同じ方向へ飛ぶことができて、狩人の手に落ちることはなかったでありましょうに。

 

 互いに離ればなれにならないようにしなければいけない。群れから逃げた子羊は、狼の餌食になってしまうものだ。