むかし宰相(ワズィール)が高官を連れて市場を歩いていました。市場の中に、奴隷を売買する地域がありました。あわれにも奴隷たちは、自由を奪われ、競りにかけられていました。

 宰相は奴隷らのほうに歩いていきました。より近くでつぶさに見たかったからです。そのときひとりの年老いた奴隷が宰相に話しかけました。

「あなたさまのターバンが汚れておりますぞ」

 宰相はターバンを取ってよく見てみました。たしかに汚れがついています。つまり何時間もこの汚れのついたターバンをかぶって市場を歩いていたのです。なんということでしょうか。彼はおつきの高官たちを悲しそうに見て、こう言いました。

「おまえたちはこのターバンの汚れを目にしていたはずなのに、何も見えなかったのかね。どうして何も言わなかったのだ? いまわかったよ、わしの本当の友人はあの貧しい老いた奴隷であるとね。本当の友人を奴隷として売られるのを見過ごすわけにはいくまい。さあご老人を買い受けて自由にしてやりなさい」

 のちに宰相はこのことを忘れないようにと、ハディースの予言者の言葉を記した額を壁に飾りました。

 

 ムスリムはほかのムスリムの鏡である。