心風景 landscapes within 63 宮本神酒男
魂の回廊 西チベット
もし自分の肉体が滅んで魂だけになったら、風に乗って西チベットを自由に飛翔してまわりたい。私はこのインド国境に近い西チベットのチョルテン列(49個のストゥーパ)をはじめて見たとき、そういう感想を持ったのを覚えている。おそらく目の前にあるものが何のために作られたか理解できなかったからだろう。
これと似たものが200キロほど離れたインド北部スピティ地方のタボ・ゴンパにある。それが11世紀頃に作られたものだとすると、これも同じ頃(グゲ王国時代)に作られたのだろう。タボ・ゴンパには観光客や巡礼客が来るが、こちらは誰も来ない。風が吹いているだけだ。
何キロか離れたところにゴンパの廃墟があるので、それと関係しているのは間違いない。しかしなぜここにチョルテン列が作られたかはわからない。近くの岩壁には少なくとも数十の洞窟群がある。僧侶らはここで質素な生活を送っていたかもしれない。
いくつかのチョルテンは崩れ、中身が露出している。それによってバトミントンの羽根のような数百の小さな泥土でできたチョルテン(ツァツァ)で埋まっていることがわかる。ときおり煎餅のような形、大きさの仏像の円盤が混じっていた。考古学的には貴重なものかもしれないが、もちろん持って帰ったりはしない。手に取って眺めるのも御法度だ。崩れやすいのだ。何百年もチョルテン内部で外気に触れることもなく生き延びてきたが、あっという間に劣化し、塵土に戻ってしまうだろう。あるいはめったにやってこない泥棒に持っていかれるかもしれない。しかし大半のツァツァやミニチュア仏像円盤は依然としてすやすやと眠っていることだろう。