内なる旅 

わたしとは誰か 

わたしが存在しなかったことはなかったし、きみも、諸王すべても、存在しなかったことはなかった。将来も、われわれすべて、存在しなくなることはないだろう。

        バガヴァッド・ギータ― 2・12 

 

(1)

 この厳しい現実世界では、幸福を追い求めるなかで、重要な物事に集中するのはたやすいことではない。体と心の必要性が真の自己、すなわち魂と調和が取れたときに、真の幸福が何であるかがわかるのである。

 しかしわたしたちはスピリチュアルな愛の探求よりも、より直接的な、肉体の、あるいはメンタルの欲求に注意を向けがちである。両親が適切な衣服を与えるが、適切な愛を与えようとしない子供を思い浮かべてほしい。子どもはかわいらしく見えるが、みじめに生きている。同様に世俗的なことに夢中な人々は彼ら自身の心の叫びを無視している。シンプルな物語がわたしたちに思い起こさせる手助けをしてくれる。つぎはインドの聖なる場所を訪ねたときに聞いた物語である。

 南インドのカーヴェーリ川に謎めいた島があり、この千年間、巡礼客がたくさんやってきた。このシュリーランガムと呼ばれる島は150エーカー以上の敷地を持つインド最大の複合寺院の本拠地だった。毎日大勢の巡礼客がシュリーランガムに押し寄せ、やむことのない儀礼音楽やマントラ詠唱、入念な儀式などに参加した。

 12世紀の間、偉大なるバクティ聖者にして学者のラーマーヌジャはシュリーランガム島に住んでいた。今日まで彼は何千万人の信者にとって智慧の導き手だった。ラーマーヌジャの後継者はパラシャーラだった。パラシャーラが少年の頃、討論の全インドの王者がシュリーランガムにやってきた。装飾を施した神輿に乗り、信奉者が居並ぶ中を運ばれたが、男は寺院の司祭に敬意を払って捧げものを渡す習慣を無視した。じっさい、彼は誰に対しても敬意を払わなかった。そのかわりに、彼が答えられない質問はないと自慢した。

 五歳のパラシャーラは学者に駆け寄り、幼い少年の声で叫んだ。「ぼく、あなたに質問があるんだ!」

 学者は軽蔑のまなざしで少年を見た。「愚かな子どもよ、おまえの唇にお母さんのお乳がついておるぞ。さっさと帰りなさい」

「旦那さま、もしあなたがすべてのもののなかに真の自己を見ることができるなら、なぜぼくの歳にこだわるのですか。あなたはどんな質問にも答えられるのではないのですか?」

 神輿から顔をしかめて見ろしながら学者は反駁した。「わたしはこの国のあらゆる学者に挑み、勝利してきた。わたしに答えられない質問などないのだ」

 幼いパラシャーラはかがんで手にいっぱいの砂を掬い、たずねた。「ぼくの手の中に何粒の砂があるかわかりますか」

 学者は言葉を失った。これは彼が言う質問ではなかった。

 パラシャーラはつづけた。「旦那さま、お許しください。あなたはあまりに傲慢で、他人のなかにある特性のいいものを見分ける眼力がなくなっているのです。よい果実がなる木は枝を垂らします。おなじようによい特性を持った人間は他者の美徳に対し腰を低くするものなのです。もしそれがあなたの性格を成長させ、神に帰依するようにさせるのでなかったなら、すべてのあなたの知識は砂のように無価値にすぎないでしょう」

 子どもによって発せられたこれら悪意のない言葉は学者の心を射貫いた。彼は神輿から降りて、敗者として少年の前でひざまずき、弟子として学ばせてほしいと懇願した。

 何年ものち、ほかの弟子がパラシャーラに近づいてたずねた。「自分がだれであるかを理解できるようになるまでに、わたしはどんな特性を持つべきでしょうか」

「自己を理解した人物だけがあなたに完全な回答をすることができます」パラシャーラはつつましやかに答えた。「聖者アーナンタが聖なる地ティルパティに住んでいます。彼のところへ行ってください。彼ならあなたの質問に答えてくださるでしょう」

 ティルパティはシュリーランガムから六百キロ以上離れたところにあった。当時は車がなかったので、弟子は徒歩で長い旅に出なければならなかった。彼はいくつもの川を渡り、蛇や虎の害の恐れがある森をいくつも抜け、七つの山を越え、ようやくアーナンタの山の隠者の庵に着いた。アーナンタは彼を暖かく迎え、夕食をふるまい、簡素だが安楽な部屋を見せた。

 翌日弟子は聖者に近づいてたずねた。「わがグル、パラシャーラがここに来てあなたにたずねなさいとおっしゃいました。自分がだれであるか理解するようになるまで、わたしはどんな特性を持つべきでしょうか」

 アーナンタは一瞬、間を置き、言った。「それについて考えてみましょう。あとでお答えいたしましょう」

 アーナンタが質問に答えることはなく、六か月が過ぎた。しかし弟子は辛抱強く待った。庵の中のこまごましたことや、瞑想、授業参加に忙しかった。

 ある日アーナンタの庵の近くで祭礼がおこなわれた。何千人もの人々が集まった。弟子はボランティアで多数の巡礼者のための宴を手助けした。ある時点で彼は休憩を取り、自分の皿を持って腰を下ろした。しかしアーナンタは言った。「まだ食べないように。つぎの巡礼グループをもてなしなさい」。弟子はアーナンタの命令に従った。しばらくして彼は自分の皿を持って腰を下ろした。しかしまたもアーナンタは彼に、今は食べないようにと言った。「あとで食べられますよ」と彼は言った。「ほかの巡礼団が来ましたから、そちらをもてなしてください」

 弟子は三番目の巡礼団をもてなした。そして四番目、五番目も。その夜遅く、ほかの誰もが食事をすませたのはあきらかで、祭礼の会場はからっぽだったので、パラシャーラの弟子はようやく食事をするために腰を落ち着けた。

 アーナンタが彼に近づいてきた。「わたしが思うに」と彼は言った。「あなたはわたしに質問があるはずだが」

 待ちに待った弟子は立ち上がってたずねた。「自分がだれであるかを理解するために、わたしはどんな特質を発展させるべきでしょうか」

 やさしくほほえみながらアーナンタはこたえた。「人は塩のように、ニワトリのように、鶴のように、あなたのようにあるべきです。わたしが言いたいのはそれだけです」。そう言って彼は立ち去った。

 弟子は困惑した。「わたしはこれだけのために六か月も待ったのか」。混乱した彼はアーナンタに去ることを告げ、荷物をまとめてシュリーランガムに向けて帰りの旅路についた。七つの山を越え、六百キロの道のりを歩いて帰郷した。

「それで」とパラシャーラは言った。「あなたは質問の答えを得てきたのだろうか」

「はい」と弟子はこたえた。「でも理解することができませんでした」

「どういうことか話してくれ」

 


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