タロット神秘史 ロバート・M・プレース 宮本神酒男訳 


神の叡智が人間にとっての愚かさであるという事実は、この世界の愚かさが神の叡智にとって意味を成すということを意味するわけではない。 A・E・ウェイト 


 この章(「タロット神秘史」)ではタロット史の第2段階、すなわちオカルト・タロット時代や現代タロット史を論じていくことになる。最初にオカルティストたちの注意を引いた作家はクール・ドジェブラン(172417281784)だった。彼がはじめて自分の理論を世に出したのは1781年のことである。それゆえ1781年をタロット史の第2段階のはじまりと年とみなしても差し支えないだろう。タロットの起源がエジプトにあること、それがジプシーによって運ばれたこと、古代エジプトの聖人ヘルメス・トリスメギトリスやヘブライ語のアルファベット、神秘的カバラーと関係していることなどの概念は、すべてクール・ドジェブランがもたらしたものである。

 この年以降、オカルティストたちはドジェブランがもたらした概念にとびつき、自分たちのものとして発展させた。フランスのオカルティスト、エッテイヤ(17381791)は現代タロット・カードとしては最初のカードのデザインを手がけた。そのデザインはタロットと錬金術の関係を深めるものだった。それはおもに占いに用いられた。

 フランスのカバリスト、エリファス・レヴィ(
18101875)は、彼の統括的なオカルト学において、タロットは欠かせないピースとみなした。そして5組22枚のカードはヘブライ語アルファベット22に対応するという理論を発展させた。

 フランスの神智学者パピュス(
18651916)はタロットの組み立てのすべての相がテトラグラマトン、すなわちヘブライ語で書かれた神聖4文字(*YHWYなど)に対応すると述べた。

 フランスの山師ポール・クリスチャン(
18111877 *ジャン=バティスト・ピトワ)は証拠を捏造してタロットと古代エジプトの秘儀宗教とを結び付け、タロット・カードをアルカナ(秘儀奥義)と呼ぶようになった。クリスチャンがこの言葉を採りいれて以来、オカルティストたちは5組目を大アルカナ、ほかの4組を絵札と数札から成る小アルカナと呼ぶようになった。

 スイスのオカルティスト、オズワルド・ワース(
18601943)がレヴィの方法論にしたがって現代タロットとしては2番目のカードをデザインした。こうした人々の尽力は、ウィリアム・ウィン・ウェストコット(18481925)やサミュエル・マクグレガー・マザーズ(18541918)によって1888年に創建された黄金の暁教団に影響を与えた。

 ウェイト・スミス・タロットを作ったアーサー・エドワード・ウェイト(18481925)とパメラ・コールマン・スミス(18781951)も黄金の暁教団のメンバーだった。それゆえこの章で論じる内容は彼らにもなじみ深かったことだろう。これらの概念が彼らに受け入れられようと、拒絶されようと、影響を与えたのはまちがいなく、ウェイト・スミス・タロットに表現されている象徴性は理解しやすいはずである。

 西欧のオカルトはヘレニズム時代の終わろうとしていた紀元2、3世紀頃、エジプトのアレキサンドリアで神秘的なヘルメス主義の土台の上に醸成されたものである。これらの思想は、モーセ以前に生きたとされる伝説的な聖者ヘルメスによって集められて、哲学、錬金術、占星術などに関する本にまとめられた。

 ドジェブランがタロットはエジプト起源であるという仮説を立てたのは、タロット・カードにエルメス主義的な象徴性を見出したからにほかならなかった。ドジェブランが主張したエジプト起源説はまちがっていたが、タロットのなかの象徴はアレキサンドリアの神秘学派に遡るものだった。

 オカルト理論およびタロットの神秘的な面を理解するためには、ヘルメス主義の歴史をひもとかねばならないだろう。ヘルメス主義的神秘思想は、その根をユダヤ教、キリスト教、イスラム教のなかに現れた神秘的、オカルト思想に求めることができる。ユダヤ教の神秘思想はカバラーとして知られ、タロットのオカルト思想がカバラーの思想を基礎としていることを理解すことになるだろう。この章では、18世紀、19世紀のオカルティストや彼らの仮説とともにヘルメス主義やカバラーについて論じることになる。