リョーリフのスピリチュアル・ジャーニー 

プロローグ 

 

 いかなる千年紀だって、最高の時代にも、最低の時代にもなりうる。おそらく人間がこの地球上に生息するかぎり、われわれは戦争や征服の欲望と無縁ではいられないのだ。それゆえ、それぞれの千年紀を特徴づけているのは、その時代に生きた人々であり、成し遂げられた結果なのである。19世紀は戦争と革命であふれた世紀だった。機械革命、産業革命、肉体革命、倫理革命、精神革命などである。人々が目覚め、膨張した時代でもあった。

 蒸気機関が創り出され、電話、電信、電灯、写真術、鉄製の戦艦などがつづいた。フローレンス・ナイチンゲールは軍の医薬を飛躍的に発展させた。フロイトは無意識について探求した。クリスチャン・サイエンスは病気、痛み、死は幻影であると教えるために組織された。1893年、米国で史上初の宗教会議が開催された。世界中から代表者が集まってきた。インドからやってきたのは二人だった。ヒンドゥー教の信仰「すべての宗教の母」を代表するヴィヴェーカナンダと、多くのアメリカ人を仏教徒に転向させ、米国にマハーボーディ協会を設立したダルマパーラである。

 インドで軍属に就いていたジェームズ・チャーチワードは、環太平洋火山帯のどこかに位置すると信じられていた地球最初の文明「ムー」の手がかりを発見した。死は魂の終わりではない、そして霊媒は精霊と交流するごとができるという確信を持つ人々は心霊主義者(スピリチュアリスト)運動を始めた。彼らは自然の法則について研究し、墓場の向こうからのメッセージを受け取った。そして生の見える側と見えない側の両方の現象を観察した。心霊現象研究協会が設立され、通常ではない人間のパワーを調査することによって科学と物理学を拡大発展させた。

 米国の仏教徒ヘンリー・S・オルコット、そして勇敢な激しい気性の持ち主であるロシア人エレナ・P・ブラヴァツキーは自然の説明できない面を科学的に調査するために神智学協会を設立した。チベットを旅しながらブラヴァツキーは、世界のすべての大宗教の共通の祖先である、歴史以前の、普遍的宗教の本質的な教えと信じた「ジャーンの書」(Stanza of Dzyan)を学んだ。もしすべての宗教が先祖を同じくし、そしてすべての宗教がひとつなら、つまり本質的におなじ教義を教えていて、ふるまいや生活に関してもおなじ理想を説いているということになる。外側の相違が異なる人種や気質を惹き込んでいるのだ。

 神智学協会が調査をおこなったことで、すべての地において、普遍的宗教の特長、存在感、融合が誇示された。ブラヴァツキーは彼女の著作である「ヴェールを脱いだイシス」「シークレット・ドクトリン」を通じてこれらの教えを広めたのである。これらの著作は出版されたもののなかで秘教的な智慧をもっとも詰め込んだものといえるだろう。それらは転生、カルマ、智慧と慈悲のマスターたちのヒエラルキーといった東洋の信仰を西欧人にあきらかにしたのである。彼らは地上の人類のために喜んで案内をしてくれるだろう。

 ブラヴァツキーの「人類の普遍的友愛と兄弟愛」はすべての宗教者にたいして開かれていた。そしてその教えは調査研究を無限に鼓舞し、世界中の数多くの人々を惹きつけてやまなかった。ニコライ・レーリヒとエレナ、その他求道者や研究者、既成の宗教ではあきたりない人々が、彼女の著作をむさぼり食うように読んだのである。彼らの多くは、信仰だけが求められる社会からはつまはじきにされていた。

 一般的に超常現象はないと信じられていた。人間の感覚はふだん不活発だが、ひとたび刺激を受けると、見えない領域を受容することも許された。ブラヴァツキーが提示した基本的な教えはつぎのようなものである。

(1)人間とは自身の運命を形作り、それに打ち勝つ不死の魂である。(2)人間全体の進化は霊的な側面における光のヒエラルキーの助けによって起こる。(3)ヒエラルキーはマスター、マハトマ、エルダー・ブラザー、アラハトなどと呼ばれる人々によって作られた。彼らは何度もの生涯を通じて、肉体的に、精神的に、感情的に完璧になっていき、自身の進化をつづけながら、人類のステージを上げていくことに自らをささげた。

 これらの教えはブラヴァツキーのオリジナルではなかった。長い年月のあいだに、数多くの秘密結社や神秘的な教義がさまざまな名のもとにヒエラルキーにういて語ってきた。それらにはグレート・ホワイト・ブラザーフッド(大いなる白色同胞団)、オカルト・ヒエラルキー、グレート・ホワイト・ロッジ、覚醒した者たち、神聖会議(ホリー・アセンブリー)、見えない教会なども含まれている。「白色」とは魂からこぼれてきた光のことであり、「善」の象徴である。早期エジプト文化においては、これら「長老」は「不死」やあふれんばかりの「智慧と知識」と関連づけられた。ペルシアでは彼らはマギと呼ばれた。赤子のイエスに贈り物をもたらした王たちである。カルデアでは科学と星を知る者は「偉大なる者たち」と呼ばれた。彼らは占星術を人類に遺した。紀元前604年、古代中国の哲学者で道徳経の著者、老子は彼らのことを古代マスターとして語った。多くのチベットの僧侶たちは、同胞団はムー(チャーチワードが発見した文明)にはじまり、チベットに移動し、彼らの修行の場所にラサができていったこと、またのちにチベットのどこか、おそらく北西地方に定着したと信じている。

 マスターたちは死、恐怖、痛み、苦悩、その他人間の感情や肉体的問題などを克服しているので、大半の人間に適用される自然の法則が彼らにはあてはまらない。精神的に進化を遂げているので、彼らは高次の肉体を会得している。あるいは身体の波動を緩めることができる。彼らは神の意思が何であるか、また神にそむくことが何であるか理解するだけの智慧を持っている。人間の未来のためのプランも持っていると言われる。彼らの導きによって人々は輝かしい未来に到達することができるだろう。そこでは人々は慈しみの心を持ち、感謝の気持ちを忘れず、自身に、互いに、母なる大地に、そしてすべての創造物にたいして責任をもって生きているだろう。

 古代の智慧は学校としての地球の概念を受け渡していく。そこでは長老やマスターはほかの精神的な面において進歩していくよりも奉仕するために残ることを選択する。彼らは人間が進化するのを助けるために生命をもささげる。われわれを鼓舞し、慰め、教えるのであって、けっして彼らのやり方を無理強いすることはない、あるいは自由意思を阻害することはない。なぜなら、そうすることはカルマの原則に反しているからである。

 マスターたちはつぎのようなことをやっていると広く信じられている。すなわち、人類の準備が整うと、彼らは力強い思考波と感情波を、微細な世界のメンタルの潮流に送り込む。そうして人々は新しい理想を描き、願望をいだく。これはまったく斬新な、いままでにない感覚である。このマスターたちは、世界中の異なる地域に同時に現れるという。世界平和への希求、宗教的に寛大な理想社会、他者の利益のための協力や責任を基礎とする社会などが彼らの新しいゴールである。

より高度な次元に同調した人々がインスピレーションや瞑想によって理想へと近づく。彼らは人間の意識の流れのなかで、それらを伝授していった。エレナとニコライ・リョーリフ(レーリヒ)も霊的なマスターたちに導いてもらった人々である。彼らは書くこと、芸術をつくることを通して、マスターたちの教えを広めた。

 『ジャーンの書』はこの世にわずか3冊しか残っていないという。そのうちの1冊はアクバル大帝の時代に、インドのどこかに隠されたと信じられている。ほかのすばらしい財宝とともにこの書はどこかに埋められたのだ。それは冒険心に富んだ芸術家、考古学者、探検家、彼の勇敢な妻によって発見される日が来るのを待っている。