ばけ猫オパリナ あるいは九度転生した猫の物語 

ペギー・ベイコン 宮本神酒男訳 

 

第二の生(1765) 

T 臆病な殺し屋 

 

 つぎの夜、子どもたちは暗い部屋のなかにすわって、ばけ猫が目を覚ますのを待ちかまえていました。ばけ猫は、夕顔が花開くように、大きくなるのです。

「ジェブは、ばけ猫が目を覚ますところを見るのが大好きなのね」とエレンはつぶやきました。

 オパリナはみずからをふるいたたせました。「若者は美しさにたいする感性をもっておるな」

 オパリナは目をパチクリさせ、光のコインのような光の粒のシャワーを発しました。それらはジェブの指のあいだを抜けていきました。

「光るおはじきだ!」ジェブはクスクス笑いました。

「閣下どの」フィルはいつものようにばかていねいにききました。「あなたは最初の生のできごとを話してくださりました。つぎにどうやっておばけになったか、教えていただけないでしょうか」

「あたし、殺害されたのよ」

「サツガイってなに?」ジェブがたずねます。

「殺されたのよ、おチビちゃん。犬にね。あたしは犬に殺されたの」

「ジェブはこの話、きかないほうがいいわね」とエレンはいいました。「もう就寝時間だしね。ママがもうすこしでやってくるから、ベッドにつれていってもらうわ」

 エレンは起き上がり、ジェブをひきよせ、居間のほうへ連れていきました。彼女がもどってきてすわると、顔を前脚できれいにしていたオパリナは動作をとめました。

「おチビちゃんがベッドにはいったことだし、あたしはじぶんの不慮の死について話すとするよ」

 ソールが去ってから長い年月が過ぎ去りました。そのあいだにあたしは数えきれないほどたくさんの子どもを産みました。ほんとうに玉のように美しい子どもたちです。一度に3匹か4匹の赤ん坊を産んだのです。ベンとアンジェリカの子どもはたったの5人です。しかも一度にたったひとりずつでした。

 でもトランブル家の子どもたちはみなとても行儀よくて、あたしに親切にしてくれました。赤ん坊のときでさえ、子どもたちのだれひとりあたしのしっぽを引っ張ったりしませんでした。ヘンリーとケイトが先に生まれ、それから輝かしい肌をしているのでクランベリーというあだ名がつけられたアーロンが生まれました。それからミニーが生まれました。そしていつもつまずいてつま先を痛めていたため、「つまずきちゃん」というあだ名がつけられたルークが最後に誕生しました。

 ホーレスは立派な若者になりました。ベンはホーレスを大学にいかせました。卒業して立派な学士さんになったあと、ホーレスは家にもどり、トランブル家の子どもたちの家庭教師となりました。

 トランブル家はたくさんのすばらしいゲストを迎えました。訪問者は現在よりも長く滞在することが多かったのです。遠くからやってきた人々は、デコボコの道を、ガタピシの馬車からほうりだされんばかりに揺られながらやってきたものですから、一か月、あるいは一か月以上もトランブル家の屋敷に滞在しました。屋敷はいつも若いのから年寄りまで、友人や親せきであふれかえっていました。かれらはみな陽気で、わきあいあいとしたなごやかな雰囲気がありました。しかしそれもある十月、セリーナおばさんがメイドとペットの犬とともにやってくるまでの話です。

 アンジェリカの叔母、裕福なやもめのセリーナは、人生において3つのことに情熱をそそいでいました。3つとは、服、宝石、犬のトッツィーです。この甘やかされたスパニエル犬はしおれた菊の花のようにだらしなく垂れ下がった巻き毛におおわれていました。首には、首輪のかわりに青いサテンのネクタイが絞められていました。キツネみたいな顔の口からは細い舌がたれさがり、顔いっぱいおおうほどの毛のあいだから、目じりがピンク色の目がのぞいていました。それはキャンとほえ、キュンキュンと鼻を鳴らし、クンクンとあたりをせわしなくかぎまわりました。トッツィーを愛していたのはセリーナおばさんだけでした。おばさんがつれてきたフランス人メイドも、みなから嫌われていました。

 ガブリエルはアメリカのものすべてを軽蔑していました。ことあるごとに表情に出していたのです。

 この部屋はセリーナおばさんとトッツィーが使うことになりました。ガブリエルの部屋はとなりでした。かれらは長旅の疲れをとるためしばらく部屋で休憩し、心身ともリフレッシュしました。けれどもそのあと階下に降りると、面倒なことがはじまったのです。

 セリーナおばさんを迎えるため、家族全員が客間にあつまりました。おばさんのあとから降りてきたのはたくさんの荷物をかかえたガブリエルで、手に持った革ひもの先にはトッツィーがつながれていました。そのときあたしはバスケットのなかで丸々と太った3匹の子どもたち、ダフィーとダウニー、ディリーを育てていたのですけど、そこから様子をながめていました。そしてトッツィーを見たときゾッとしたのです。なんとなくうまくいきそうという考えはいっきょに吹き飛んでしまいました。

 セリーナおばさんが持ってきた贈り物は、慎重に選んだものであれば、こんなに喜ばしいはじまりもなかったでしょう。アンジェリカは小粒真珠のブローチをほんとうに気に入っていました。贈り物を心の底から気に入ったのは、残念ながらアンジェリカだけでした。ベンに贈られたレースの飾りはにやけた男にぴったりの悪趣味なものだったと、ベンはあとで語っていました。ホーレスへの贈り物は嗅ぎたばこ入れでした。でもホーレスは嗅ぎたばこが好きでなかったのです。ヘンリーに贈られたライラックのグローブは田舎で装用するにはもっともふさわしくないものでした。ケイトに贈られた黒テンの毛皮もおなじように田舎には不似合いでした。ミニーに贈られたシルクの帽子は5歳の幼児には大きすぎましたし、つまずきちゃんに贈られたガラガラは赤ん坊のオモチャでした。つまずきちゃんは頭にきてガラガラを床になげつけてしまいました。

 クランベリーの反応はもっとすさまじいものでした。クランベリーは6歳ながら男らしさにあこがれ、兄ヘンリーにならってカットをいれたズボンをはいて意気揚々としていました。ですから贈り物の箱をひらき、なかに蝋(ろう)人形を見つけたときの怒りようといったら、想像を絶するものでした。クランベリーは人形の頭を足で踏みつけてしまったのです。この人形がほしかったのはミニーでした。ミニーは人形ほしさにうなり声をあげたほどです。このように幼い子どもたちは醜態をさらすことになってしまいました。

 ガブリエルはてんとう虫みたいな目をくるくるさせながら、子どもたちの養育を担当している乳母のアニーに「アメリカ人の子どもはなんて野蛮なのかしら」とこぼしました。フランス人の子どもたちは罰のムチがこわくてこんなふるまいはしないというのです。アイルランド人のアニーは言い返しました。

「たしかにおっしゃるとおりですわ! 生まれたときから痛めつけられた小さなカエルみたいですものね、びくびくしたフランス人たちは。かれらは成長して色黒になり、気むつかしくなるんですから、おどろきです」

 ガブリエルは引きひもをドアノブに結びつけ、地下牢のようなじぶんの部屋にもどっていきました。

 客間のほかの家族は、子どもたちのふるまいについて謝罪しなければなりませんでした。アンジェリカとベン、ホーレス、ヘンリー、ケイトは贈り物がいかによかったか、ありがたかったか懸命に伝えようとしました。というのもセリーナおばさんが侮辱されたと感じ、心を痛めていることがはっきりと見て取れたからです。

 ベンはビンテージもののマデイラ・ワインのボトルをあけ、ホーレスとともにセリーナおばさんに祝杯をあげ、おばさんがいかに美しいか賛辞のことばをならべました。ワインとビスケット、それに心地よいほめことばのせいか、セリーナおばさんは元気をとりもどし、いきいきしだすとともに、女の色気をも発するようになりました。彼女はブレスレットをいじり、扇をあおぎながら、ボストンの舞踏会で出会った准男爵の男友達のことをペチャクチャとしゃべりはじめました。彼はとても親切で、ブルーディ・ヘン(卵を抱きたがるめんどり)という村の宿に一週間かそこら泊まって、彼女を追いかけたそうです。

 トッツィーがキュンキュンと鳴いて引きひもを引っ張りはじめたので、セリーナおばさんはひもをはずし、自由にしてやりました。すると犬はあたしのいるかごに飛び込んできたのです。あたしは怒って身を起こし、背中を丸めてうなり声をあげました。犬はキャンキャンとほえたてると、一歩しりぞき、あたしの子どもたち、ダフィーとダウニー、ディリーを威嚇しながら、歯をむいてうなり声をあげ、あちこちとびはねました。あたしはすぐに反撃すべきだと思って犬にとびかかり、その耳にかじりつきました。犬はセリーナおばさんの足元に逃げこみました。

 彼女は犬をだきあげ、甘い声でいいました。

「かわいそうなトッツィーちゃん! このバカ猫があなたの耳にかじりついたのね!」

「母猫がじぶんの子どもを守ろうとするのは当然のことですわ」とアンジェリカはいいました。「セリーナおばさん、どうか犬をこちらに近づけないようにしてください」

 セリーナおばさんはすぐに言い返しました。

「あら、まあ、なんてことをおっしゃるの! かわいい動物たちは、すぐに友だちになるものなのよ」

 この考えはまったくばかげていました。

 友だちだなんて! トッツィーが子猫たちのかごに近づいたら、あたしは客間からこの犬を追い出し、下のホールまで追いやり、それからこちらにもどってきます。あたしはこのイスに飛び乗り、いつでも犬を追っ払えるよう、シャーッと音をたててシャドーボクシングするのです。トッツィーがこの部屋をじぶんのものだと思わないようにね。

 ここはあたしの部屋なのです。たくさんの子猫の世話に疲れたとき、あたしはこの赤いベルベットのイスで休みを取るのが習慣になりました。セリーナおばさんとトッツィーがやってきたあとも、あたしはこの習慣をかえませんでした。トッツィーだろうとだれだろうと、だれにもかえられませんでした。

 トッツィーが近くにいると眠れませんでした。近寄ってきたら爪でひっかいてやろうとそなえていましたから、仕方のないことなのです。犬のほうがあたしよりすこし大きく、強く、重かったのです。あたしがまさっていたのは、臆病でないところだけです。あたしはいつも身構え、犬はいらだったかのように歯をむきだし、うなり声をあげました。

 トッツィーをからかう心地よい時間帯もありました。そのあいだこの犬を恐れる必要がなかったのです。まったくあべこべです。セリーナおばさんのひざの上にいるとき、犬は暴君のようにふるまうことができました。それ以外のときは、あたしが近づこうとしたなら、犬はしっぽを後ろ足のあいだに入れて逃げていたのです。それ以前、あたしの敵はソールだけでした。恐れたのはソールだけだったのです。こんどの場合、敵はあたしを恐れたのです。ウキウキせずにいられましょうか。事実を認識しました。日常的な小競り合いは生活に色を添えるのです。

 セリーナおばさんはあたしたちふたりをよくしかり、またときにはなだめすかして友だちにさせようとしたのです。どちらかを撫(な)でたあと、もうひとりを撫でるなどして。ひとつの皿で同時にふたりに食べさせようとしたこともありました。アンジェリカはしっかりしたかただったので、あたしたちが遊び友だちになるなんて考えもなさりませんでした。セリーナおばさんは夢の世界に生きていたのです。

 それはハロウィーンの夜でした。トランブル家はセリーナおばさんのために晩さん会をひらいたのです。近くの田舎の町や村から、妻を同伴した牧師や医師のほか、たくさんのカップルがやってきました。セリーナおばさんのあの男友だちとやら、そう英国の准男爵とやらも午後には村の宿に着いていましたから、晩餐会の参加者リストにはいっていたのです。ダイニングルームにあつまったのは、みなで三十名ほどだったのではないでしょうか。

 その晩、たまたまあたしはひどく疲れていました。その一週間、子どもたちを離乳させるため、ふるまいかたを教え、じぶんたち自身をどうやって守るか、訓練させていたのです。この子たちはほんとうに元気よく飛び跳ねていて、あたしはほこらしく思いました。ダフィーは亀の甲、ダウニーは純白、ディリーは淡黄色の毛の色をしていました。みなチャーミングで、だれからも愛され、すくすくと育っていきました。どうやって顔を洗い、なめて毛並みをつややかにし、お皿からどうやって水やミルクを飲むか、食べ物をまき散らさないで食べるかといったことを学ばせました。あたしはいい母親だったと自負しています。けれども疲れ切っていました。だからこのひじ掛けイスにやってきてひと休みすることにしたのです。

 晩餐会が大盛況のころ、トッツィーが階下のダイニングルームにいることは知っていました。トッツィーはせわしなく動き回ったかと思えばちょこんとすわって奴隷根性まるだしで食べ物をせがんだりしました。ここまで身を落としたくないとあたしは思いましたよ。二時間ほど犬はそんなことをしていました。あたしは身の危険を感じることはなく、へとへとになって深い眠りにつきました。

 でも思ったほどには安全ではなかったのです。トッツィーはかじれるものはなんでもかじっていました。そのまま階段を駆け上がって、深い眠りについているあたしを発見すると、チャンス到来と喜んだのです。犬はとびかかって、あたしの首の後ろにがぶりとかみつきました。これであたしの最初の生は終わりを告げたのです。

「まあ、なんてかわいそうなオパリナ!」エレンは悲しげな声をあげました。

「気にしないで、子どもたちよ」オパリナはきっぱりといいました。「突然起こったことなので、痛くもなんともなかったの。それにリベンジはちゃんとしたのだから」

 オパリナはふたつの肉球をなめました。その目は建国記念日の花火のようにあかあかと燃え、きらきらと輝いていました。

 まあともかく、つづけましょう。トッツィーは階段を駆け下りて、まるでアリバイ作りでもするかのように、ゲストたちの足元を走り回りました。結果的にこのことが犬にとっていいふうに作用したのです。参加者が家を去ったあとセリーナおばさんが二階にあがり、あたしが死んでいるのを見つけたのです。彼女は家じゅうの人を呼び、知らせました。だれもがすぐに犯人はトッツィーにちがいないと考えました。

 子どもたちの保母であるアニーがいいました。

「今夜はハロウィーンですよ、亡霊と魔女が活躍する夜じゃないですか。悪霊が犬にとりついたにちがいありません。魔女は黒猫以外嫌いなのです」

 その夜のことは痛々しくて語る気にもなりません。ともかく、家族はショックを受けました。つぎの日、家族はあたしをライラックの茂みの下に埋めました。そして小さなこぎれいな石を置いてあたしの墓を作りました。アンジェリカや子どもたちはあたしのために泣いてくださいました。ベンとホーレスも目をぱちぱちとしばたたきながら、鼻を鳴らしていました。そのときアンジェリカがセリーナおばさんにつめより、トッツィーを閉じ込めておくよう要求しました。トッツィーは危険な犬で、子猫たちをおそう可能性があるのです。けれどもセリーナおばさんは同意を強要されたように感じました。

 セリーナおばさんとガブリエルは、ときおり首輪をつけて犬の散歩をすることは許されました。しかしそれ以外のとき、犬はこの家に幽閉されたのです。それはあたしにとってはラッキーでした。

 あたしはすぐに亡霊になりました。それは信じがたいほどの変化でした。もともとあたしはとびきり優雅で、しなやかで、柔軟で、敏捷で、順応的でした。いまや、あたしは曲芸師どころではありません。地上のいかなる動きからも解放された、自由の身になったのです。

 あたしは煙のように漂うことも、巨大なタンポポの綿毛のようにくるくるまわることもできるようになりました。ジェニー(精霊)のように一瞬でたくさんの身に分裂することもできるようになりました。サイクロンのように渦巻くことも、シャボン玉のように高く舞い上がることも、白コウモリのように大きくなることもできるようになりました。あたしはじぶんの燃える目を皿ほどの大きさにすることも、じぶんの舌を炎にすることも、人間のことばでささやくこともできるようになりました。日が落ちたあと、こうしたことすべてをトッツィーに見せてやったのです。

 日がかなり短くなっていたので、十一月のことだったと思います。セリーナおばさんはティータイムに階下におりると、就寝時間まで上にもどることはめったにありませんでした。だからあたしには十分な時間があったのです。あたしはトッツィーにとりつき、悪事をおこなったことで罰してやりました。

 あたしはミルク色の蛇のような姿をとり、座布団の上をくねりながら這い、それから犬の頭上に突然舞いあがると、空中でくるくる回りました。トッツィーはおびえてベッドの下にもぐりこみました。あるいは、ひきだしのなかに身を隠しました。犬がどこに隠れようと、あたしは犬がいるところにはいることができました。犬はつぎつぎと隠れ場所をかえましたが、むだなことでした。あたしは犬の耳元でささやきました。

「トッツィーちゃんはなんてわるい子なの。どうしようもない性悪の犬なのね。さ、おすわり! バカ犬ちゃん」

 トッツィーはキュンキュンと鳴き、衣装ダンスの下の狭いスペースに自分のからだをねじこもうとしました。あたしはとっておきの幕切れを用意していました。あたしは巨大な頭になり、床の上をすべって犬の目の前に迫ったのです。

 こうした日々がすぎ、トッツィーはしだいにいらつきをつのらせ、その挙動はおかしくなりました。どこか切れてしまったかのような犬になったのです。セリーナおばさんはその様子を見て心配でたまらなくなりました。

 セリーナおばさんは犬のトッツィーになにが起きたかまったくわかりませんでした。なぜならおばさんにはあたしが見えなかったからです。おばさんがロウソクをもって部屋に入ってくると、あたしは消えました。彼女がベッドに入り、ロウソクの火を吹き消すと、あたしは階下に漂いながらあらわれたのです。あたしはセリーナおばさんを驚かす気はなく、残りの夜、寝息をかいている子猫たちの真上を漂い、からだを寄せ合う子どもたちを見守り、煙の毛布でやさしく包み込んだのです。

「かわいいトッツィーになにが起きたのかしら」ある日、セリーナおばさんはかなしげにいいました。「頭がおかしくなったとしか思えないわ」

「もし犬の頭がおかしくなったとしたら」理性のあるベンはいいました。「撃ち殺したほうがいいのかな」

 セリーナおばさんは弱々しくキャッと叫び、ソファのクッションの上に倒れこみました。ガブリエルが呼ばれ、オーデコロンでおばさんの額をひたし、気つけ薬をもってくるよう命じられました。意識がもどってくると、彼女は目をこすり、泣きながら「トッツィーは私のすべて。トッツィーなしでどうやって生きていけばいいの」といいました。

 トッツィーの頭はおかしくない、というつもりはありませんでした。彼女のかわいこちゃんはわれを失っていただけなのです。それが天候のせいか、腹の虫の居所が悪かったのかはわかりませんが。

 驚かせてしまったことをベンはわびながらも、病気の兆候がないかどうか犬をよく見るべきだとおばさんにいいました。ガブリエルがトッツィーを散歩に出したとき、ベンは犬に近づかないよう命じました。

 その夜、トッツィーをからかって遊んでいるとき、いいことを思いつきました。霧のようなからだで漂いながら天井の隅まで流れ、それからあたしはゆっくりとかたまりになるのです。あたしは両目のゴーグルに灯をともして、らんらんと輝かせます。からだのほかの部分は彗星に見えることでしょう。それから不意に、ちぢこまって壁に身を寄せているトッツィーにおそいかかるのです。

 トッツィーはキャンキャンほえたて、うなり、キーキー悲鳴をあげました。それから狂ったように扉にガリガリと爪をたてました。こうしたことのすべては家じゅうにひびきわたってしまいました。この情景を最初に見たのは保母のアニーでした。ロウソクをもって入ったときに見てしまったのです。家じゅうの人がなにごとかとかけつけました。子どもたちもパジャマ姿でやってきました。みなが玄関にいるトッツィーを見て、何が起きたのだろうかと不思議に思いました。犬はぶるぶるふるえ、ひきつり、キュンキュンと鳴いていたのです。

 セリーナおばさんはなんとか犬をしずめることができました。みなはそれを見て寝室にもどりました。翌朝、ベンとアンジェリカは動物病院につれていくようにといいました。トッツィーを処罰しなければ、セリーナおばさんにはもう来てほしくないとまでいったのでした。

 こうしてあたしは家から犯罪者トッツィーを取り除くことに成功しました。トッツィーは獣医の家の裏庭のドッグハウスで何年間もつながれてすごすことになるでしょう。一日かそこら、セリーナおばさんはふさぎこみ、殉教者のようにすごしました。しかしおばさんにはもっと心配すべきことがあったのです。

「もう寝る時間です。残りはあした話しましょう」

 

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