復活祭の日曜日はとてもおだやかな日和で、よく晴れました。朝、教会へ行く前、家族全員が庭にあつまり、シュガー・プラムの木をはだかにしていく子どもたちのようすを眺めました。教会から帰ってきたあとは、豪勢な昼間の宴が開かれました。若者たちが午後の昼寝をしているとき、年長の子どもたちのあいだでは、タマゴ探しがおこなわれました。

 ネッドは農場から1升(ブッシェル)以上のタマゴをもってきて、かたくゆで、虹の七色に染めました。家族のほかのおとなのメンバーはイースター・エッグ作りに協力しました。その日早くからパトリックとペリーは知恵を絞って、タマゴを人目につかないすみや割れ目に隠しました。

 晩餐が終わると、少年や少女はバスケットをもって芝生の上にならびました。そしてソフィーにエッグ・ハント(タマゴ狩り)のルールについて説明がなされました。オースティンおじいさんがディナーの鐘をならしました。それがスタートの合図となり、各自距離をたもちながら、四方に散っていきました。もう一度鐘の音を聞くと、かれらはすぐにもどってきました。持ち時間は40分ほどです。もっともたくさんのタマゴを見つけた者には賞品が贈られました。

 イマジネーションの豊かさを発揮したのは、双子の兄弟でした。タマゴは木の根っこのあいまに隠されていたり、岩の割れ目に埋め込まれたり、リュウキンカの花の群落やコケの下に沈み込んでいたり、テンナンショウの花や天水桶の口に押し込まれていたり、如雨露(ジョロ)のなかや花瓶の下、牧場の長い草の原や、小川の横の葦のなかに置かれていたりしました。

 タマゴ自体も見た目が美しいものばかりでした。このあざやかに色づけられたニワトリのタマゴのほか、チョコレート・マシュマロのタマゴや、チョコレート・クリームのタマゴ、ココナッツ・ペーストとマジパンのタマゴ、うっとりとさせる色合いの砂糖でできたタマゴ、はちみつボールや砂糖漬けのすみれがはいった、花で飾られたタマゴ形の箱などがありました。

 モリーが言ったように、みなに十分いきわたるほどのたくさんのキャンディがありました。もっとも、ソフィーはひとつも見つけることができなかったのですが。モンタギュー家の子どもたちはみなソフィーよりもはやく走ることができました。このことはほんとうにソフィーにとっては不利でした。それに祖父母が所有する庭や果樹園、森などの道をかれらはよく知っていました。それらは毎年タマゴさがしに使われていたのです。ソフィーがおくれを取るのは驚くべきことではありませんでした。見つけたタマゴの数がもっとも少なかったのは、しかし、ソフィーではありませんでした。生まれながらの博物学者、コリンがいわばソフィーを救ったのです。小川の真ん中の岩の上で日を浴びている二匹の赤ん坊の亀をコリンは発見しました。

 サンダルを脱いで、コリンは亀を見ようと近づいていきました。水際の土手をよたよたと歩いて、亀を眺めているとき、鐘の音が聞こえたのです。彼は亀をかごに入れ、サンダルをはくと、急いで家の芝生にもどりました。そこにはほかの人たちがコリンの帰りを待っていました。こうしたことから、コリンが見つけたタマゴの数はソフィーよりも少なかったのです。でもほかの子どもたちがコリンにとやかく言うことはありませんでした。というのも、彼は亀をつかまえていて、それをガラスの水槽のなかにいれて飼うことを知っていたからです。この水槽は、かつては死んでしまった最愛の金魚「赤のエリック」の住まいでした。

 いよいよおじいちゃんによる表彰の授与がはじまりました。一等賞をもらったのはアンドリューです。彼は動物が好きだったので、とても喜びました。復活祭のウサギ(イースター・バニー)に選ばれた彼には、大きめのかごに入れられた白いウサギが贈られました。

 二等賞をもらったのはジャスパーでした。賞品は見た目のいい羽根つきのセットでした。そしてモリーが三等賞をもらい、リボンと造花で飾られたフットボールほどの大きさの白砂糖漬けのイースター・エッグをもらいました。タマゴのはしにはガラスののぞき穴があり、それをのぞくと、遠くのロマンティックなお城を背景に、羊飼いの女性が羊の群れをひきいる牧歌的な風景が見えました。

 コリンとソフィーにはなぐさめのプレゼントがありました。それはなかにジェリービーンズがつまった張り子のリスでした。

 いまやハッピーでないのはソフィーだけでした。彼女だけはなにかすっきりしないのです。とくに彼女の敵といえたのはアンドリューでした。彼が一等賞をもらったことに彼女は憤慨したのです。彼女が見下しているいとこたちは、かごいっぱいのキャンディとすべての賞品を得ました。それにくらべ、彼女が手にしたのはリスのオモチャと半ダースのゆでたまごだけでした。リスはとても安っぽく、子どもじみていました。ジェリービーンズなんてまずそうで、食べられたもんじゃありません。ジャスパーが勝利したゲームに関しても彼女はほとんど注意を向けませんでした。そもそも彼女は生きたウサギなどほしくありませんでした。彼女は負けず嫌いで、スイーツが大好きでした。そしてモリーの大きな白いタマゴがほしくてならなかったのです。

 モリーは自分のタマゴに関してはとても寛容でした。だれにたいしてもタマゴの内側を披露し、ぞんぶんに目を楽しませてあげたのです。ロバート、ルーシー、ファッジも午睡を終えたあと、外に出ると、タマゴを見せてもらい、午後のあいだずっとそれで遊ぶことが許されました。モリーがトロフィーを手に取って、二階の自分の部屋に持っていき、ベッドのかたわらのテーブルの上に置いたときには、子どもたちの夕食の時間になっていました。

 バニスター家の人々は週の残りの日をここで過ごすことに決めました。モンタギュー家の子どもたちはこの期間中、羽根つきをしたり、イースター・バニーのまわりを駆け回ったりして楽しみました。子どもたちはウサギをかわいがり、草やニンジン、コックから手に入れた野菜などをやりました。アンドリューはウサギをホミニーと名づけました。ホミニーは大好きな朝食のシリアルの名前で、白い色だったのです。子どもたちはウサギ用の檻をもち、果樹園のチェリーの木までホミニーを連れていきました。ホミニーだけでなく、木の家やブタも楽しむことができました。

 こうしているとき、おとなたちはソフィーがふさぎこみ、ひとりでぶらついていることに気づきました。モンタギューの年長の子どもたちは繰り返し、アンフェアといえるほどこのことについてしかられました。

「ソフィーをゲームにいれてあげなさい」ネッドは息子たちにピシャリと言いました。

「でもお父さん、ソフィーはぼくらのどの遊びにも加わろうとしないんだ」ジャスパーは反論しました。

「それならソフィーが好きな遊びをすればいいじゃないか。ゲストなんだからね」

「でもどんな遊びも好きじゃないんだ」アンドリューが不機嫌な顔つきでこたえました。

「そんなことないさ! だれにだって好みというものはあるんだ。彼女の好みを探してあげなかったということだ。ジャスパー、ソフィーのところへ行って、いっしょに遊ぼうって言ってごらん。いま客間にいるはずだから」

 ジャスパーは言われたとおりにするほかありませんでした。彼がソフィーを探し当てたとき、彼女は自動ピアノの前で大儀そうに、でも忙しそうにしていました。

「ソフィー」彼はこわばった表情で言いました。「これまできみはぼくらがすすめた遊びすべてを気に入ってなかった。でもきみはゲストだから、なんでもきみが好きな遊びをやろうと思うんだ。それはきみに決めてほしい」

 沈黙が流れました。

「まあ、なにもしたくないんだろうね」ジャスパーはソフィーが「なにもしたくない」とこたえるだろうと予期していました。父親には結果だけ報告しようと彼は考えはじめました。

 ところが、答えをもとめられたソフィーは「椅子取りゲームをしたい」とこたえたのです。

「そりゃいいな!」ジャスパーは喜びいさんで、さっそくほかの子どもたちを集めようとしました。しかしかれらはさほどうれしそうではなかったのです。というのも「警官とどろぼう」(泥棒ごっこ)というお気に入りの遊びをやめなければならなかったからです。でも命令は命令です。それは権威あるところから発せられた命令だったのです。そこでかれらはジャスパーのあとから客間へと行進し、絨毯を蹴っ飛ばしてすみに寄せ、小さな金メッキのイスを並べました。そしてみながそっと動き、いっせいに走り出し、よろけながらイスを確保するのです。その間も順繰りに自動ピアノにタッチしました。そのときエミリーおばあさんが部屋にはいってきました。

「おやまあ! この大騒ぎはいったいぜんたい何なの? そもそもこんな日和のいい日になぜ室内で遊んでいるの? イスをもとの位置にもどして、絨毯をすぐに広げなさい。それから、お願いだから、家から出て!」

 おばあちゃんはパンを焼くのに忙しかったので、急いで台所に戻っていきました。モンタギュー家の子どもたちは二回つづけて命令に従ったので、義務は果たしたという気になっていました。楽しいタマゴ狩りの庭にあわてて戻ったかれらは、さっそく好きな遊びをはじめました。

 つぎに批判されるべきはモリーでした。ペリー・モンタギューは愛娘をしかりつけました。「なぜソフィーと遊びたがらないのか、理解できん。ソフィーが来る前、いっしょに遊べる子がいたらいいなあって言ってたじゃないか。彼女はそれからすぐやってきたんだぞ。おまえはその話ばかりしていた。それなのに彼女とは遊ばず、男の子とばかり遊んでおるではないか」

「でもパパ、ソフィーが遊びたがらないのよ。みんなで彼女といっしょに遊ぼうとしたけど、遊んでくれなかったの」

「でも、まあ、モリー、あの子はまだ子どもなんだ。ちがった環境で育ってきたんだ。おまえやほかの子が好む荒っぽい遊びに慣れていないんだと思う。だが女の子どうしで遊べることもあるだろう。ソフィーもきっと楽しめる遊びがあるだろうよ」

「それは何、パパ」

「おいおい、モリー、どうしてわしにたずねる? 女の子が好きなことって、おまえがよく知っているだろう。人形遊びだよ。人形のお茶会をひらいて、人形におべべを着せるのさ。ソフィーを屋根裏部屋に連れてって、おばあちゃんがトランクにしまってるお人形を見せたらどうだい」

「もう見せたわ。でもお人形が古くさいから、好きじゃないんだって」

「好きじゃない? そうか、ま、では、紙人形を作るってのはどうかな? コリンがたしか絵描きセットをもってきているはずだ。それを使わせてくれるはずだ。ともかくおまえがどうしようと口ははさまないよ。だがおまえはホストであり、ソフィーがゲストであることを忘れないように。ソフィーがまるで存在しないかのようにふるまうのは、もうやめてくれ」

 嫌いな人と遊ぶのを強要されるのは、たまったもんじゃなかったのです。自分にたいしてもおなじように嫌っている人とどうやったら遊べるでしょうか。父親にさからいたくなかったモリーは、紙人形作りをソフィーに提案してみました。しかし彼女はかわいらしい鼻をモリーに向けて言いました。「それってちょっと子どもじみているわ。モリー、自分の年を考えたほうがいいわよ」

 コリンはモリーよりひとつ年下だったので、ソフィーについて彼に何かやってもらおうとはだれも考えませんでした。おとなも子どもたちも、コリンは「ひとりで歩く猫」のようなものだと考えていました。彼は好きなときに、好きなように、楽しみの輪に加わったのです。ゲストを楽しませるときに、彼は何の役割も与えられませんでした。ジャスパーとアンドリュー、モリーはいとこのソフィーを無視したことでしかられました。もううんざりというのが正直なところです。事態がいっこうに改善されないので、三人は何度も説教されるはめになりました。

 モンタギュー家の子どもは全員、ソフィーに我慢できませんでした。ジャスパーはソフィーをアストラットの乙女(アーサー王伝説)のように考えましたが、もうやめました。ルーシーは、ソフィーがすばらしい服を着ているからといって、王女にたとえようとは思わなくなりました。ルーシーもファッジも、ブタを愛さないソフィーを許すことはありませんでした。ソフィーのおかげでコリンはいつも神経質になっていました。彼女のことはいつも心に引っかかっていたのです。ロバートは彼女のことが好きではなかったし、アンドリューにいたっては彼女を憎んでいました。こうして日に日に空気は悪くなるいっぽうでした。

 モンタギュー家の子どもたちとソフィー・バニスターのあいだの不仲は決定的でした。子どもたちが果樹園にいるとき、ソフィーは庭を散歩していました。子どもたちが庭にいるとき、ソフィーは家の中にすわっていました。雨が降り、モンタギュー家の子どもたちが家の中で遊んでいるとき、ソフィーは部屋の中にいました。おとなたちも努力が足りず、状況を変えることはできませんでした。

 ソフィーがひとりぼっちなのは、みずからが招いたことでもありましたが、本人はいじめられていると感じていました。なりゆきが残念でならず、自分の子どもたちのふるまいに問題があると考えるおじさんやおばさんたちに彼女ははげまされました。

 ひとりぼっちで歩き回るソフィーは、退屈で、怒りも感じていました。心に抱いた不満の種はしだいに大きくなり、リベンジの仕方を何通りも考えるようになりました。いとこたちが夢中になっていたのはウサギのホミニーです。ある日、いとこたちが森へ野花をつみに行ったとき、彼女はふと、とてもいいアイデアを思いつきました。彼女は果樹園に走って行き、ウサギの檻の扉をあけ、ホミニーをつついて外に出したのです。そして扉をしめたので、ウサギは檻に戻れなくなりました。彼女は遠くまで小さな棒でウサギを追いたて、果樹園から出ると、丘をおり、森の外縁へと向かいました。

 モンタギュー家の子どもたちが「探検」から戻ってきて、ウサギがいなくなっているのを発見したときの嘆きの声はとてつもなく大きなものでした。かれらはモンタギュー家の敷地の、そして敷地外の、考えられるすべての場所を捜索しました。まるで愚かな生き物が名前を知ったかのように、かれらは「ホミニー! ホミニー!」と叫びながら走り回りました。

 このできごとには、だれもがとまどいました。不注意によって、ウサギの檻がしっかり閉まっていなかったのでしょうか。その場合、ホミニーは自分で扉を押し開けることができたということです。でもどうやって扉を閉めたのでしょうか。

 風によって閉まった? 

 でも風は吹いていません。

 ではだれかが意図的にウサギを外に出したのでしょうか。

 いったい全体、だれがそんなばかげたことをするでしょうか。

 夜がやってきました。ホミニーは依然として行方不明です。モンタギュー家の子どもたちは捜索を断念し、重い気分のままベッドに行かなければなりませんでした。そしてみな鳴きながら眠りについたのです。

 あたしにとって、ウサギは勇気も威厳もない、脳みそのかけらもないあわれな動物です。ですから、誓っていいますが、自分の姿をあらわして、ウサギを嘆き悲しむ友人たちの腕の中に戻そうと決めたのは、ホミニーのためではありません。ぜったいに、ちがいます。子ども時代にあたしの親友だったエミリーのためなのです。子や孫たちがしあわせでないとき、エミリーおばあちゃんはいつも胸を痛めました。じっさい、あたしはモンタギュー家の人々全員が好きです。子どもたちの運勢がよくなるのなら、なんでもします。この場合はいたって簡単でした。なぜならあたしはホーミーがどこで見つかるか知っていたからです。

 あたしは家から暗闇のなかに漂い出て、丘を下りて、ウルシの木立ちにたどりつきました。そこには寒さにちぢこまっているみじめなウサギがいたのです。ウサギは外の世界そのものをこわがっていました。すべてが奇怪で、おそろしいものに見えたのです。そこから動かし、進み始めるために妖怪のような姿をとったり、グロテスクなさまを見せたりする必要はありませんでした。そのままでよかったのです。光を発する大きなおばけの白猫で十分ウサギの肝を冷やすことができました。ウサギはびっくりして木立ちからピョンピョンとんで出て行きました。あたしがしたことといえば、ウサギのすぐうしろにいて、まちがった方向に行かないように見張ることだけでした。

 それはたやすいことでしたが、時間がかかりました! 

 ウサギの檻のなかに生まれ育ったホミニーは、運動に慣れていませんでした。大きくて、太ったグズののろまでした。一回のジャンプで数センチしか前に進めませんでした。しかもジャンプするたび横にそれていたのです。あたしの「親切心」を避けるためにどっちへ行ったらいいかわからないウサギは、神経過敏になって右によろけたり、左によろけたりしました。あたしもそれにつれて右や左に振り回されました。シューっという音を発して命令を伝え、それとなく前に押し出しましたが。このようにしてあたしたちはジグザグに丘をのぼり、長い草のあいまを縫い、腹立たしいほどノロノロしたペースで前に進みました。

 心配の種がありました。ウサギの檻の扉をあたしはあけることができないのです。おばけは筋肉をもっていませんし、なにかコツを知っているわけでもありません。ベストのやりかたは、ウサギを果樹園に追いたてて、子どもたちに見つけさせるというものです。でもそれでも何時間かかるかわかりません。

 たいへんな苦労をして、あたしたちはなんとか丘の上にたどりつき、トウモロコシの畑を抜けました。あたしたちと目的地のあいだには、モンタギュー家の菜園があるだけです。でもあたしたちの旅はまる一晩を要しました。明け方はもうすぐです。東の空は一秒ごとにピンク色を強めていきました。夜明けのとき、あたしは見えなくなってしまうでしょう。あたしの存在に恐怖を感じてウサギはここまで来たわけですから、あたしがいなくなったら、またさまよいはじめるかもしれません。

 できるだけはやく進んでもらうよう、あたしは尺取虫みたいにからだを曲げてウサギに突っかかりました。苗木の列がならぶ畑を縫っているかのようでした。朝日が強まれば強まるほど、あたしは消えていきました。ホミニーはあたしをこわくなくなり、立ちどまって玉ねぎをかじりはじめました。

 太陽は巨大な赤いゴム玉のように、跳ね上がってきました。そうしてヤキモキしているとき、庭師のグリーンの姿が見えたのです。

 老いたグリーンはいつも早起きなのです。庭の向こう側で、彼は豆を植えていました。あたしは全力を振り絞ってフーっと音を発し、自分が発するわずかな光をちらつかせ、なんとか彼の視線がホミニーに向けられるようがんばりました。そしてつぎの瞬間、グリーンがホミニーに気づき、近づいてその耳をつかみ、抱き上げるのを見て、あたしは満足しました。

 老いたグリーンはウサギを檻までもっていき、なかに入れて扉をしめると、またもとのところに戻って豆を植え始めました。つまりうまくいったのです。朝食のあとモンタギュー家の子どもたちはホミニーを探しに外に出ました。そして檻のなかにホミニーがもどっていて、すやすや眠っているのを見てとても喜びました。しかしソフィーだけはちがいました

 バニスター家の人々が去る時がやってきました。でもだれもかれらの出発を残念がりませんでした。満足のいく訪問ではなかったということです。

 エミリーおばあちゃんは、ほかの孫たちのように孫娘のソフィーを愛せないことに気づき、悲しくなりました。

 バニスター家のアリスとハロルド夫妻は、ソフィーが愛嬌をふりまいてもここの子どもたちに人気がないことに気づいて、気分をわるくしました。

 叔父や叔母たちは、息子や娘たちがかれらの姪ほどにはよいふるまいを見せられなかったことを恥ずかしく思いました。

 そしてモンタギュー家の子どもたちは、いらだった両親に自分たちのことを認めてもらえなかったのです。それに、不公正だと感じました。いとこのソフィーが見かけのような小さな天使ではないことを知っていました。

 ソフィー自身は、かわいがられ、甘やかされ、ちやほやされ、すべて自分の思いのままにできる自宅に帰るのはうれしかったのですが、なにか納得がいきませんでした。いとこたちにみじめな気分を味合わせようと、いとしいホミニーを奪ったのに、このウサギが見つかったのです。これよりほかにかれらを罰する方法を知りませんでした。

 ソフィーはほかの理由で、落ち着きませんでした。ずっとモリーのイースター・エッグがほしかったのです。ソフィーはほしいものが手に入ることになれていました。イースター・エッグがほしければそれは確保できたのです。彼女はよく考え、計画を立て、実行しようとしたのです。

 全員が玄関に出て別れを惜しんでいるときが、イースター・エッグを盗む最後の機会でした。つまり彼女が最後に出て行かなければならないのです。彼女はきれいな帽子入れの箱にものをつめていました。この箱は、パリ製のお出かけ用の帽子を入れるためのものとして、両親が贈ったものでした。帽子は綿菓子のような淡いピンクの麦わら帽で、小さなバラのつぼみや、忘れな草、ひだ飾りのレースで縁取られていました。イースター・エッグは帽子の頂の下のティッシュペーパーの巣のなかに置かれるはずでした。彼女の家の寝室には、母親が気づかないようなエッグを置ける場所がありました。モンタギュー家の人々が疑おうが、証拠なしに彼女を攻め立てることはできないでしょう。

 あたしはアンドリューのウサギ、ホミニーを取り返すことができました。でもこの邪悪な計画を阻止することはできそうにありません。モリーのイースター・エッグの上にのってソフィーをこわがらせて追い払うなんていうのはむりというものです。なぜならバニスター家の人々は陽がさんさんと照る外にいて、あたしの姿は見えないからです。あたしはこの状況を変えることはできません。この行儀のわるい少女が勝利し、タマゴを奪うことになるのはあきらかでした。

 バニスター家の旅行カバンが正面玄関のホールに積み上げられました。もう一度、モンタギュー家の人々はここに集まりました。親類同士の別れの時です。迎えたのはわずか一週間前のことでした。

「つぎはあなたがたが南部に来てください。南部のもてなしかたをお見せしますから」とハロルド・バニスターは言いました。まるで姻戚のもてなしかたが劣っているかのような言いぶりでした。

 彼の妻は忘れ物がないかたしかめるかのように、かばんや束になったものを見ました。ソフィーがよく言うように、母はよくものを忘れるのです。このときこそが、ソフィーが待っていた機会なのです。

「帽子入れの箱がないみたいね」と母親は言いました。「ソフィー、二階に行って箱を取ってきて。急いで。馬車が玄関前に着いたみたいだから」

 ソフィーは二階に駆けあがりました。そのとき馬車が到着しました。かばん類が運び出されました。集まっていた人々は口々にさよならを言っています。

「子どもはどうしたんだ?」ハロルド・バニスターがたずねました。

「ソフィー! ソフィー! はやくしなさい! あなたを待ってるのよ!」階段の下からアリスが叫びました。

 ソフィーは階段を駆け下りてきました。帽子箱をなんとかかかえて、息は切れ切れです。

「さ、それをこっちにわたして」アリスは帽子箱のほうに手を伸ばしました。

 ソフィーは後ずさりして、取っ手をにぎっていた手をさらに強くにぎりしめました。「自分で持ってくわ」

「それをわしによこしなさい」父が前に進み出て言いました。その箱、重そうだからな」そう言いながら彼は箱をとりあげました。「やはり重いな。ソフィー、よくここまで持ってこれたな」

「ああ、ソフィーったら!」アリスは叫びました。「このすてきな帽子とほかのものをいっしょにしちゃだめって言ったじゃないの! つぶれちゃうわよ。何いれたか知らないけれど、すぐ出して、ほかのものに変えなさい」。帽子箱をㇵロルドから受け取ると、彼女はそれをどさりと置き、腰をかがめて箱をあけました。

「あけちゃだめよ、おかあさん!」

 でもアリスは留め金をはずし、ふたをあけました。帽子を取り出し、ティッシュペーパーをあげ、豪華なエッグを手に取りました。「どういうこと? これは何なの?」 

 彼女はじっとエッグを見つめ、ほかの人たちはソフィーをじっと見つめました。ソフィーは顔を赤らめ、まるで関心がないかのように装いました。

「それ、モリーのエッグだ!」ファッジが叫びました。そこにいるだれもが、知る必要のない人を含めて、そのエッグがモリーのものであることを知りました。

「どうしてなの、モリー?」アリスは大声で言いました。「平和への捧げものという意味で作ったのだと思っていたわ。いまごろになって出てくるなんて。あなたたちがソフィーとの関係修復を願って作ったのなら、とてもうれしいわ。この小さな娘は遠くからはるばるあなたたちに会うためにやってきたんですもの」

 アリスがこうして話しているあいだ、オースティンおじいさんはソフィーとモリーを見ました。交互にじっと見つめたのです。ソフィーの口はとじられ、目は用心深そうでした。モリーの目と口は驚きのあまりポカンとあいていました。

「ちょっと待てよ、アリス」おじいちゃんは言いました。「何か勘違いしてるんじゃないか。モリー、ソフィーにエッグをプレゼントしたのかい?」

「いえ、してないわ、いじいちゃん! ソフィーにあげてないわ! ファッジにあげたのよ。ファッジに言ったわ、このエッグ、ふたりでシェアしましょうって」

 いつもどおり姉の横に立っていたファッジは手をすべらせ、彼女の手に重ねました。彼はとても誇らしそうにしています。

「それならソフィーはエッグを盗んだんだ!」アンドリューは高らかに言いました。

「盗んだんだ!」

「ソフィーはそんなことする子じゃない!」両親は激怒して叫びました。

「だがソフィーは盗んだんだね」おじいちゃんは単調な口ぶりで言いました。「言葉遊びは無意味であろう」彼はアリーの手からエッグをとって、モリーにわたしました。

 ハロルドはたいへんなショックを受けていました。恐ろしいものでも見るように自分の娘を見ています。

 アリスはフランス製の帽子を手に取って、帽子箱にもどし、ふたをしめると、立ち上がりました。

「馬車が待ってるわ、あなた」おばあちゃんはやさしく言いました。「いま出ないと、列車をのがしてしまいますわ」彼女はからだを前にもたせかけて、娘の頬にキスしました。「お行儀がすべてではないからね」彼女はささやきました。「ほかの修養がもっと重要なのよ。あなたとハロルドはしっかり娘を見ていなきゃ」

 アリスはしゃくりあげていました。ハロルドは彼女の手を取って言いました。「さあおいで。行かなきゃ」かれらは扉から外に出ました。ソフィーもすぐあとからついて行きました。

 モンタギュー家の子どもたちのだれもソフィーにさよならを言いませんでした。言わなかったからといって、しかられることもありませんでした。そしてだれもいとこをふたたび見ることはありませんでした。


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