その日は土曜日だったので、夜、かれらはオパリナと会うことができました。オパリナはいつものように霧のようなボールのなかに丸まって眠っていました。

「いないいないばあ!オパリナさん!」ジェブが呼びかけると、オパリナは目をさましました。

 エレンとフィリップを見てオパリナは皮肉っぽくいいました。「おや、どうやらあたらしいすばらしい友人たちともうケンカしたようだね」

「ぼくのせいじゃないよ」フィルはみじめな様子でいいました。

「静かなさい! あなたたちふたりともそれではだめよ。五人の健康な子どもたちが歩いていたので、なにかドラマがはじまるんじゃないかと期待したわ。なにかおもしろいこと、デリングドゥ(有名な競争馬の名)をあたしは待ってたの。でもあなたたちが愚かすぎて、あたしの希望はふっとんだわ」

「デリングドゥってどういう意味?」エレンはたずねました。

「デアリング(大胆な)ドゥーイング(すること)って意味よ、もちろん。大胆なことをしないで、すわってクチャクチャ食ったり、おしゃべりしたり。あんたたちふたりとも話しすぎよ。機転のきかないおしゃべりってとこね」

「ほんとに心からあやまるわ、あなたのことを口に出したこと」エレンはしょんぼりといいました。

 オパリナは鼻を鳴らしていいました。「じつに不運だったわね」

「エレンはすべてを話したかったんだ。でもぼくはそうはさせなかった。かれらはぼくたちのことを信じなかっただろうから」

「その点ではあなたは正しいわ。その目で見ないかぎり、あたしの存在を信じないでしょうよ。見ることは信じることって人はいうけど、それはつまり、人がいかに想像力を持っていないか、ということなのよ」

「じゃあ、わたしたちどうすればいいの」エレンは泣きそうな顔でいいました。

「あたしにきかないで! 死ぬほど退屈だわ。近頃の子どもたちのことはわからないの。ふたりとも、年老いたベンジャミン・ペイズリーほどにもおもしろくないわね。なんの楽しみをも提供してくれないし、物事をゴチャゴチャにするだけだから、またこもりにはいるわ。会話はこれで終わり。安眠を邪魔しないでね」そういうとオパリナは霧のような「ふさふさ」を集め、光の球のなかで丸くなりました。

 フィリップとエレンはみじめな気分でした。いさかいの午後のあと、オパリナに否定されてしまったことがひどくこたえているのです。月曜からはじまった学校生活は、いままで以上にわるいものでした。

 はじめ、かれらは学校の生徒のだれも知れませんでした。いま、全員を知っていますが、友だちはみな離れていってしまったのです。ビルはかれらのことを無視しました。ジョンの態度はよそよそしいものでした。バーサは子どもじみたほど冷酷で、エレンが近づくと背を向けました。

 つぎの土曜の夜、悲しみに暮れるふたりは、幼い弟をつれて二階の遊び部屋に行き、古い赤いベルベットのイスのとなりに坐りました。

「あたしがあんたたちを呼んだのは、今週はずっと楽しくなかったと思ったからだよ」トランス状態から目覚めながら、オパリナはいいました。彼女はあくびをし、からだを伸ばし、あわれみの目で子どもたちを見ました。

「もうすべておそろしいほどいやな一週間だったわ」目に涙をためたままエレンはいいました。

「ほんとに最悪だったな」とフィル。

 オパリナはかれらを見上げました。「愚かなことをしたのだから当然の結果ね」

「たしかにそうだな」フィルはつぶやきました。

「同意してくれてうれしいわ。十分罰を受けたわね。この家の子どもたちのことはいつもあたしの責任下にあるの。だからいまもう一度、あたしは状況をよくするために一肌脱ぐ必要があるわ」

「あなたにそれができるとは思わない」とフィルはいいました。「問題は、友だちがもうぼくたちのことが好きじゃない、ということなのだから」

「それに状況を変えることはできないわ」エレンは重々しくいいました。「わたしたちみたいに人を変えることはできないと思うの」

「あたしができる、できないって勝手にきめつけないで!」オパリナは歯をむき出していいました。「第二の視力を持ってるって聞いたことないの? 静かにして、よく考えてみるから」

 子どもたちはじっとしてオパリナの集中が切れないようにつとめました。そのあいだ、オパリナの目は飛び出したり、引っ込んだりし、また電球のようについたり消えたりして、かれらにウィンクしていました。

「気球みたいだね!」ジェブが歌うようにいいました。

「若者よ、おまえは霊感を与えてくれた! これからわれわれがなにをすることになるか、あたしにはよく見える。ここ遊び部屋で、ハロウィーン・パーティをひらくことになるだろう」

「ハロウィーン・パーティだって?」

 それは大胆な提案に思われました。

「あたしのための誕生パーティさ! 二百年前のハロウィーンの日、あたしはオバケになったんだ、覚えているだろう? あたしの二百歳の誕生日は祝われるべきなんだ。招待状を三人の信仰心のない友だちに送りなさい。ほかの人たちには送る必要なし」

「かれらを招くなんてできないよ」フィルは拒みました。

「バーサは話しかけてもくれないのよ」とエレン。

「もし頼んでも、来てくれないよ」

「もしあたしのことばを使ってインビテーションカードを魅力的なものにしたら、かれらは招待を受け入れるさ」オパリナはそう主張しました。

「どうやったらいいのだ?」

「なんといえばいいの?」

「名誉あるゲストが、この家に住んだすべての人々について話します、といいなさい。好奇心をくすぐるのです。かれらは好奇心だらけですから」

「それはあなたの正体をかれらに見せるということ?」

「それは名案ね。名誉あるゲストがそこにいるのはまちがいないですから」

「もしかれらが来るとして、どうやってもてなしたらいいんだ?」

「それにオパリナ、あなたをどうやって楽しませるの?」

「考えておきましょう。娯楽をいっぱい用意しましょう。同時にあたしはじぶんも楽しむことができるでしょう」

「ぼくたちはなにをすればいい?」

「なにも気にする必要なし! あたしがいったとおりにしなさい。招待状を書きなさい。空洞のカボチャを持ってきなさい。カットして顔をつくりなさい。あまった部分はあたしのために残しておきなさい」

 オパリナは丸くなり、そのまま眠ってしまいました。子どもたちは階下に降りていきました。

 便箋とペン、それにたっぷりアイデアを持って、フィリップはこざかしい招待状の文面を作成しました。

 

    エレンとフィル・フィンリーは 

    選ばれたひとびとだけのパーティに

    あなたをょうたいします 

    場所はわれらの家の遊び部屋 

    時間は午後7時30分 

    ハロウィーンです! 

    われらの名誉あるゲストは 

    つまり名誉あるオバケは 

    この家に住んだ人々のことに関して 

    すべてを話してくれます 

    これは秘密です 

    だからだれにもいわないように 

    (RSVP.学校にて)

 

 招待状はジョン、ビル、バーサに郵送されました。オパリナが予言したように、招待状が届いたその日にかれらは招待を受け入れました。

「招待してくれてありがとう、フィル」休み時間、ジョンはこのようにいいました。「あのとき、怒りまくってほんとうに悪かった」

「大丈夫だよ! もう忘れよう! ぼくたちこそ率直でなく、とてもおかしかった。さて、ジョン」まるで散歩しているときに出会ったかのように、彼はジョンを呼びました。「きみとバーサで、ハロウィーンの日、それをつくってくれないかな」

「もちろん、いいとも。あの論議のあと、こうして招待してくれるなんて、とてもすてきなことだ」ビルは申し訳なさそうに笑いました。

 正午、ランチルームでバーサはこっそりエレンに近づいてきました。きまり悪そうに彼女は淡々といいました。「友だちになりたくて、パーティに行くことにしたの」。それにたいし、エレンは「大丈夫よ」とこたえました。

 お互いの悪感情はやわらぎました。にもかかわらず、フィンリー家のふたりはこの三人を避けました。オパリナが空気を浄化するのに成功するまでは、心を広げた友情などありえなかったのです。

 毎日、授業が終わると、エレンとフィルは家に急いで帰りました。ハロウィーンの準備に余念がなかったのです。パーティ開催の許可も母からもらいました。母は子どもたちのために巨大なカボチャを買い、子どもたちはカボチャの実をえぐりだしました。フィルはまたカボチャの側面を切り、荒々しい猫の顔をつくりだしました。

 子どもたちがオパリナを起こし、カボチャを見せると、彼女はとてもよろこびました。オパリナはそれが「当世流行のもの」で、もっともハロウィーンにふさわしいものといいました。そしてそれを暖炉のなかに置くよう命じました。

 ハロウィーンの前日、フィリップはファッジ(キャンディの一種)をつくりました。彼が作れる唯一の食べ物だったのです。エレンは母がクッキーを焼くのを手伝いました。マカロンやブラウニー、ハーミット、ジンジャースナップなどもそのなかに含まれていました。

 偉大なるハロウィーンの日がやってきました。かれらは遊び部屋をカラフルな風船やクレープペーパーの吹き流し、レッド・オークの葉の滑車輪、ツルウメモドキなどで飾りました。そしてダイニングルームから借りた四本の燭台の横のマントルピースの上にマッチ箱を置きました。

 エレンが突然口をひらきました。「オパリナのためにバースデー・プレゼントを用意しなくちゃ。お兄さん、なにかいいもの知ってる?」

「正確にはバースデーじゃないよ。オバケが生まれた日だからね。幽霊に贈る者なんてこの世にはないさ」

「それならなにか気味悪いものあげるわ。そうだ、いい考えがある!」エレンは声高にいいました。

 彼女は走って菜園の向こうの牧草地まで行き、両手にいっぱいの種ができたトウワタをかかえてきました。大きいさやの一方の端に、彼女は小さなヒゲのはえた顔と大きなタマゴ形の耳を描きました。もう一方の橋には、母の編み物かごにはいった毛球から切りとった灰色のアンゴラウールの毛糸のしっぽをむすびつけました。トウワタのさやは滑稽なネズミになりました。

 残りのさやを裂いて中身を出すと、さやは絹のようになめらかな白い綿毛になりました。綿毛すべてをベリー・バスケットに敷き、ネズミを置きました。そして「親愛なるオパリナへ、秘密部屋のネズミの思い出とともに エレンより愛をこめて」と書かれたタグをネズミの上に貼りました。

 フィルはこの作品に感銘を受けました。それをしのぐものを作ろうとしたわけではないのですが、模型飛行機セットのバルサ材を削ってそこから二匹の子猫を作り出しました。彼は吸収のいい綿を重ねてコーティングし、それを小さい板にとりつけました。子猫たちの前の木材には「誕生日おめでとう ペティジョンとクラッカージャック、フィリップより」という文が焼き付けられました。

 ジェブもまたオパリナにプレゼントをあげようと考えました。スレート板に白いチョークでオパリナの絵を描きました。その上にピンク、グリーン、紫のチョークを使って丸い大きな目を加えました。絵の下にはJEB(ジェブ)といれました。ジェブはこの三文字しか知らなかったのです。

 夕食のあと、かれらはダイニングルームのテーブルを飾りたてました。晩にはここで宴が催されるのです。あちこちに贈り物やペーパークラッカーが置かれました。秋の葉の敷物の上には、フルーツが山積みに盛られ、甘いサイダーのはいった水差し、サンドイッチが並んだ皿、ナッツやポップコーン、クッキー、ファッジがはいったボールなどが用意されました。

 遊び部屋のロウソクがともされ、カボチャの前の炉辺に贈り物が置かれるころには、時計は七時半をさしていました。そしてゲストたちが時間通りに家に到着したのです。

 

 ジョン、ビル、バーサ、そしてフィリップ、エレン、ジェブはいっしょに遊び部屋にはいりました。部屋はカラフルな休息所に変身していました。壁のなめらかな板張りは、ロウソクのクリーム色の光を受けて、照り輝いていました。訪問者はその雰囲気にひきこまれていきました。

「みんな、カーペットの上にすわって」フィルがそういうと、招かれた子どもたちはことばにしたがいました。フィルはマントルピースのほうへ近寄りました。

「ロウソクがないよ、フィル」ジェブが不満げにいいました。

「いいんだよ、ジェブ。さ、まず、ゲストの人たちに、名誉にかけて約束してもらいたい。今夜見たことは絶対にほかの人にいわないと」

 ゲストの子どもたちは約束しました。

「だけど名誉あるゲストはどこにいるんだい?」ジョンはたずねました。「名誉あるオバケを呼ぶためにどうするんだい?」

「ロウソクがないよ、フィル! ロウソクがないよ!」ジェブは不満をもらしています。「ロウソクの火を吹き消したら、オパリナが来れるよ!」

「オパリナ? アンジェリカ・トランブルが飼っていた猫のこと?」ビルはいぶかしそうにいいました。

「そのとおりだ」フィルはロウソクを吹き消しながらいいました。

「まさか暗闇のなかにすわんなきゃいけないんじゃないよね」バーサは叫びました。

「ずっと暗いわけじゃないわ、バーサ」とエレンはいいました。「オバケを呼ぶには暗くないとだめなの」

「あんたがオバケについて話しているあいだ、暗闇の中にいるなんてごめんだわ」

「いいからだまれよ!」ビルはバーサにせかしました。「いまかれらは手品をやろうとしてるんだよ。どういうふうにやるのか、タネをぼくらに見せたくないのさ。さ、フィル、つづけて」

 フィルは残りのロウソクをすべて吹き消しました。そしてフィンリー家の子どもたちはワクワクしながら古い赤いイスのほうを見ました。しかし部屋は暗いままでした。

「わたしこういうの、きらいだな」バーサは不平をこぼしました。

「ねえ、カボチ見て!」ジェブが叫びました。「カボチ見てよ」

 炉辺に置いたカボチャのなかから青い光がもれてきたのです。フィルが彫ったカボチャの猫の顔の耳、目、歯、鼻から光が出ていて、それは明るさを増していきました。そしてアーモンド状の目から虹色のシャワーが出て部屋中を、そして子どもたちをひとりひとり照らすのでした。

「見て、オパリナの目だ!」ジェブは叫びました。

 シルクのようなやわらかいささやき声が聞こえ、ゲストたちは跳びあがりました。「若者が友だちをひそかに見張る」 

「わたし家に帰るわ!」バーサは泣き出しました。

「おろかな少女だ!」カボチャが叫びました。「なにも煮て食おうってわけじゃない。あたしなんぞは二百年もなにも食ってはおらぬわ」

カボチャのノコギリみたいな歯のあいだからツバがとんでも、これらのなぐさめの言葉がバーサを落ち着かせることはできませんでした。彼女が泣きわめこうというとき、兄は不安そうにいいました。「これはイタズラだろ! いったいどういうトリックを使ったんだ?」

「ぼくもわからないよ」ジョンがぼそっといいました。

「トリック(イタズラ)じゃないよ。これはトリート(もてなし)だ」フィルはいいはりました。*ハロウィーンの日、子どもたちは近所の家をまわりながら、玄関先で「トリック・オア・トリート」と叫ぶ習慣がある。お菓子をくれないとイタズラするぞ、という意味。

「わたしたちの秘密を見せたんだから、よろこんでほしいし、感謝してほしいわ」エレンはプンプンしながらいいました。

 しかしゲストの子どもたちはちっとも楽しんでいるようには見えませんでした。

「臆病な心の持ち主たちのために、この扮装を脱いでしまおうか」カボチャの中の光が外に発せられると、バーサは「きゃあ」と叫びました。

 カボチャの目から輝く霧が出てきて、雲を形成すると、それは子どもたちの頭上をすべって移動しました。そしてゆっくりと古い赤いイスの上に下降し、渦を巻き、丸くなり、霧の成分が凝縮して、白いアンゴラ猫のかたちになりました。

「こちらが名誉あるゲストだ」フィルは声高にいいました。

「アンジェリカ・トランブルの飼っていた猫です」エレンが付けくわえました。

「ぼくのだいちゅきなオバケだよ」ジェブはいいました。

 猫科の霊体はえらそうにじぶんの体を大きく伸ばし、サーチライトみたいに訪問者たちに視線を当てて目をクリクリさせました。圧倒された子どもたちは、ぼおっとしてオパリナの言葉を聞きました。

「そう、たしかにあたしはオパリナである。ほかの世界からやってきた、大気のもっとも美しい成分からできた、薄もやの、透明な存在である。まあ、VIP、ベリー・インポータント・プレゼンスだね。

 あたしはまさに今夜、二百歳の誕生日を迎える。まず、炉辺に置かれた贈り物にかんして、家の子どもたちに感謝の意を表したい。トウワタのネズミはほんとに天才的な作品だね。子猫たちもチャーミングだ。若者の描いた肖像画も大傑作だ。

 しかしながら、あたしたちはただ祝うためにここにいるのではない。おまえたちの先祖とあたしはあつい友情で結ばれていたので、あたしはすべてをおまえたちに語ろうと決めたのだ。また、おまえたち三人が情報源を明かさないとして、現在のわが被保護者を非難したので、話すことでおまえたちの好奇心を満たし、同時にいさかいをやめさせようと考えたのである」

 そういいながらオパリナは姿勢をくずしてリラックスしました。彼女はらくらくとからだを丸くして、きゃしゃな、燃え立つ炎のような舌で顔をきれいになめました。それからふたたびオパリナはじぶんのサーガ(物語)を語りはじめました。

 フィリップとエレンは以前にすべて聞いていたので、青白い光と古い赤いイスから流れてくるゴロゴロという音のまじった声にうっとりしながら、ジェブとともにおとなしくすわりました。歴史はささやかれ、語られ、物語から物語へとつながれていきました。まるで夢の中のように扉がひとつずつあけられ、子どもたちはそこを通ってずっと昔の友人や親戚に会ったり、交わったりしました。

 トランブル家、ペイズリー家、カンバーランド家、モンタギュー家がやってきたり、出て行ったりしました。叙事詩はペティジョンとクラッカージャック、下宿屋パンキー、ミス・パンキー、ブリット一家が登場する物語で終わりをむかえました。

「そしてフィンリー家がやってきて、あたしの第九の生がはじまったわけさ」

 いまやゲストたちは恐怖を感じることがなくなっていました。オパリナは愛想がよく、猫らしさをたもっていたので、オバケだと感じさせなかったのです。いくつもの生を通じて彼女は気高く、人助けをする友人だったのです。

 聞いていた子どもたちのあいだに、安堵のため息が広がっていきました。

「聞いてほんとにすごいと思った」とビルはいいました。みな感謝の気持ちでいっぱいでした。

「どういたしまして」オパリナはありがたそうにこたえました。そしてあくびをして、前足のあいだにあごをうずめました。

「ビンゴはほんとに秘密部屋をきれいにしたようだな」ビルは部屋を観察しながらいいました。

「きれいにしたみたいだ」フィルは惜しむかのようにいいました。

「ラッキーなやつだ。ダイヤモンドのブレスレットを見つけるなんて」ジョンは声高にいいました。

「見つけていなかったらよかったのに」バーサは叫びました。「セリナおばさんはアンジェリカのおばさん。わたしたちの遠い親戚なのよ。そこにまだあったら、わたしが見つけたかもしれない。わたしにはそうする権利があるわ」

「コイン・コレクションもアンジェリカの孫が所有していたんだ」彼女の兄がいいました。「そっちのほうが価値があるし、より興味深いんだ。それを手に入れることができていたらなあと思う」

「そのとおりだな」フィルは同意しました。

「わたしならブレスレットね」エレンがわってはいりました。「ビンゴが見つけてくれてうれしいわ。だってあの家族、ほんとに貧しかったんですもの。でも、どうかしら! もう財宝は残されてないかしら」

「財宝はもうないね、たしかに」オパリナはつぶやきました。

「でもなにか見つけられるかも」

「探せばあるかもね」警戒しながらささやくようにいいました。

 フィリップは悲観的でした。「なにか見つかるとは思えないな。エレンとぼくはなんども秘密部屋を探したんだ」

「ここだけとはかぎらない」

「ここ以外のどこを探すの?」エレンは知りたがりました。

 目を細めてオパリナはいいました。「手ごたえはありますね」

「オパリナ、あんたはビンゴにどこを探したらいいか教えたはずだ」とがめるようにフィルはいいました。

「そうよ。なぜかって、みんな家で無事に暮らしてほしかったの。みんなすくすく育ってほしかったの。とくに子猫たちにね。あんたたちのだれもこんなふうに食べ物や避難場所が必要ってことはないでしょう」

「でももしわたしたちがなにかを見つけたらどうするの?」エレンはたずねました。

「いや、ひとがまちがえて置き忘れたものがいくつかあります。それほど重要なものではないのです。それがどういうもので、どこにあるか、といったことは申しません。探して、探し当てたら、きっと楽しいでしょうから」

「どこにでもあるってこと?」

「いえ、ソールがいた一角だけです」

 もちろん、オパリナは正しいのです。宝探しはたのしいものです。たとえそれが高価なものでなかったとしても。子どもたちはあちこちに散らばりました。階段を上がったかと思うと駆け下り、曲がり角でよろけ、戸棚をのぞきこみ、敷物をめくりあげ、机の引き出しをすべてあけ、タンスや書き物机をよく調べました。ソールがいた一角はたしかにいままでくまなく探したわけではありませんでした。そこで見つかるのは、ささいなものばかりで、価値あるものや役立つものではありませんでした。しかし子どもたちが板張りの部屋にもどってきたとき、じぶんたちが発見したことによってとても興奮し、喜んでいたのです。

「ぼくが見つけたものを見てよ」フィルは叫びました。「階段の下のクローゼットに隠されていたんだ。ペイズリー船長の象牙のイルカがついた杖だ。覚えてる? 彼女とジムが懇願したとき、フィービーが持ってきたものだ。埃だらけだけどね」彼はハンカチでそれをふきました。

「これを見てよ!」ビルは、ふたに金文字でHTと書かれた小さな鼈甲(べっこう)の箱を見せました。「これは屋根裏部屋の樋(とい)の下にあったんだ。蜘蛛の巣だらけだったけどね。たぶんセリナおばさんがホレースにあげた嗅ぎタバコ入れだと思う。ホレースは一度も嗅ぎタバコをたしなんだことないんだけど」

 バーサもまた屋根裏部屋をひっかきまわし、煙突のうしろから人形がはいったトランクを見つけました。そのなかには亜麻色の髪の、よく彩色された顔をもつ木製の人形が含まれていました。人形はボディス(胴着)をつけ、溝付きペチコートをまとっていました。

「なんてかわいらしいこと」エレンが叫びました。「所有者はだれかしら」

「フィービー・ペイズリーのひいきの人形ですよ。ブルー・ベルという名前です」オパリナは情報を子どもたちに与えました。

「ブルー・ベル!」バーサはうっとりとして人形を抱きしめました。「わたしがあなたを見つけたのよ! とてもうれしいわ!」

「ジョン、きみはここでなにを見つけたんだい?」フィルがききました。

 ジョンは笑ってこたえました。「ガラガラだけだよ。クローゼットの一番上の棚で布にくるまれていたんだ。まあ、どうってことないものだね。ぼくはホイップアーウィル呼子を持っているから、これはジェブが持つべきだな」

「ジェブはもうガラガラで遊ぶ年じゃないよ」

 でもジェブはそうは考えませんでした。ジョンの手からガラガラをとると、ジェブはしげしげとそれを見ました。それはクジラの歯を彫って作られたものでした。大きな赤い鼻を持ち、銀の鈴をのせた帽子をかぶったミスター・パンチだったのです。ジェブがそれを振ると、みにくい顔のなかでガラス玉の目玉がギョロギョロし、こっけいな感じで横にらみしました。ジェブは喜んではしゃぎました。

「で、この持ち主はだれ、オパリナ」

「リトル・トリッパーですよ。ケイトの息子ジムにわたり、そしてフィービー、そのあと行方不明になって忘れられてしまったのです」

「エレンはなにも見つけなかったの?」手に何も持たずにかたわらに立っていた少女にビルはたずねました。

「なんにも」悲しげに彼女はこたえました。「もうなにも残ってないんじゃないかしら」

「もうひとつだけ残っています」オパリナはやわらかくいいました。「ヒントをあげましょう。あなたたちはいま、とても暖かいと感じています。そしてあたしのことをかまわない……」

 エレンはうつろな表情を浮かべました。と、その顔に明かりがともりました。「オパリナ、あなたの迷惑にならない?」丁寧に彼女はききました。

「まさか、かまいませんよ」

 エレンの手がオバケの霧のような体を突き抜けて、イスのクッションの下をまさぐると、とても小さななにかをつかみました。それはエナメルの花のバンドにつつまれた銀の指ぬきでした。エレンがそれをじぶんの指にはめてみると、ぴったりとあいました。「なんて美しいのかしら」彼女は声をあげました。「これはだれのものなの?」

「それは刺繍の試作を終えたほうびに、エミリー・カンバーランドがもらったものです」

 そのとき階下で銅鑼が鳴らされました。フィルは高らかにいいました。「食事の時間になりました!」

「あたしの昼寝の時間だね」オパリナは眠そうな目でウィンクしました。

「オパリナ、ありがとう、すべてのことで!」

「ほんとにありがとう」

「ありがとう!」

「ありがとう!」

「ありがとう!」

「あんがと、ぼくのだいちゅきな子猫ちゃん!」

「よい甘い夢を、若者たち。つぎの土曜の夜までごきげんよう」オパリナはうすぼんやりとした渦巻くへりをあつめて丸くなり、ピカピカ光る目をとじました。すると板張りの部屋は暗くなっていきました。