8700の聖体 ピンダヤ洞窟礼賛 (1) 


















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 もっともミャンマーらしい場所を選ぶなら、バガンとともにピンダヤ洞窟(シュエウーミン洞窟)を挙げたい。そのどちらにも言えることは、人間の限界を超えて聖なるものを作り続けたことである。バガンに建てられた2000近くものパゴダ(仏塔と寺院)とはスケールにおいてかなわないが、洞窟のなかをぎっしりと埋め尽くした8700もの仏像も、非凡な信仰心のなせるわざである。

 しかし同時に、セルロイドの玩具のような仏像を作ってしまうのもミャンマーである。シュエダゴンのような権威ある大パゴダの仏像でさえ、頭部の後ろには電飾のような後光がきらきらと光っているのである。ミャンマー人はこれを安っぽいとは感じず、むしろ神々しいと感じるのである。


聖域を訪ねようとする者の気概をくじくゆるキャラ蜘蛛。気を取り直して洞窟に入ると、息をのむような静寂の空間があった。

 だから峻厳な岩壁に張り付いたようなピンダヤ洞窟寺院の入り口に、雰囲気をぶち壊すような漫画のような巨大蜘蛛が置かれるのである。もちろんこの蜘蛛は洞窟の伝説の主要登場キャラである。

 伝説によれば、嵐が来たとき、7人の王女はこのシュエウーミン洞窟に逃れた。しかし蜘蛛の姿をしたナッ(悪霊)はこれを絶好の機会ととらえ、7人の王女を幽閉してしまったのである。

 あるとき散歩をしていたニャウンシュエの王子クンマバヤは助けを求める声を聞き、さっそうと駆けつけて、弓矢で巨大蜘蛛を殺した。王女たちはこうして蜘蛛のもとから脱出することができたのである。

 この伝説はこの地域の先住民であるダヌ族の言い伝えである。(ダヌ族はもともと黄金の地、スヴァンナブミから来たという)

オリジナルの伝説では、王女は7人ではなく、ひとりにすぎない。ひとりのお姫さまを巨大蜘蛛(それは敵の大将のたとえだろうか)から救うスーパーヒーローの話のほうが、われわれにはわかりやすい。

 伝説もまた蜘蛛オブジェと同様どこか安っぽいのだが、洞窟寺院の内部は息をのむような神聖な空間である。おそらく手つかずでも自然の鍾乳洞として稀有な聖地なのだろうが、何世紀にもわたってミャンマーの仏教徒たちは聖域をさらに気高いものに仕立ててきたのだ。

 瞑想をするのにこれほど理想的な場所もないだろう。実際、洞窟のあちこちに瞑想用の小さな空洞があるようだが、われわれはそれをほとんどたしかめることができない。(それとわかる瞑想用の小窟は下の写真。もぐるようにして中に入った)