不思議な現象を見せる魔神像

 あるときアポ・ネテン(A po gnas rten)などの随行を連れてパンリム・チューデ寺(Bang rim chos sde)へ行ったときのこと、夜、ツェンの神堂(btsan khang)を訪ね、堂内で長らく楽器を演奏させ、歌った。随行らは外部の人に知られるのではないかと恐れ、あわてたが、尊者は法術を使って音が漏れないようにしていたのである。

 タクポ・タツァン寺の本堂にはまたラーフラ(gZa’ rgod 曜魔)の神像があった。この魔神はたいへん凶悪で僧侶に害をもたらすことがあった。(霊媒が)ペーハル神を呼び、ラーフラの腹部に矛を刺した。傷口からは大量の出血が見られたが、かえって祟りが増大する事態を招いた。寺の高僧ンガリ・ウカルパ(mNga’ ris dbu dkar ba)は尊者に救助を求めた。尊者は夜間、随行の者たちを連れて本堂へ行き、手印を結び、神像を指すと、神像はぶるぶると震え始めた。その場にいる人はみなその光景をはっきりと見ていた。それから神像の腹部に開いた孔に木綿布を当て、出血を止めた。また神像の口の中は人を害するための呪いの短冊や人形でぎっしり埋まっていた。尊者はそれを全部取り出し、神像に向かって害をなさないように約束させ、降伏させた。これ以降災いは少なくなり、地方豪族同士のいさかいも減った。 

お米の雨、天からの銀貨

 オル(’Or)上方の寺に着いたあと、ある日ヘールカの法要を執り行ったところ、天からお米の雨が降ってきた。室内にも落ち、あふれんばかりだったので、かき集め、おかゆをこしらえ、みなで分けて食した。

 オル滞在中、法要を営むだけの財力が不足していたが、突然天から一包みの銀貨が降ってきた。だれが投げ込んだのかわからない。おそらく護法神によるものだろう。 

巡礼の旅をしながらラサへ

 エ(E)地方にいるときはロンチャカル寺(Rong cha dkar)などすべての聖地を巡った。

 ラプ(Rab)では自然に成ったマチグ・ラプドゥン(Ma gcig lab sgron)岩の下で我執を断つ修行を一ヶ月にわたって行なった。

 このあとチューコルギェル(Chos ’khor rgyal)へ行き、(予言で有名な)ラモラツォ湖(Lha mo’i bla mtsho)を参拝した。そのときに何と予言されたかは、のちほど詳しく述べたい。

 それからロギャといっしょにラサに到着した。そこで数ヶ月、ひそかに暮らした。

 木の羊の年(1715年)の十一月二日、祭神節の日、私は乞食に身をやつしてペーハル観(デプン寺のこと)を参拝した。群集に混じって本堂に入ったが、隅のほうに身を隠していた。と、突然護法神(ペーハルが憑くネーチュン)が剣をふりかざして群集を分け、私の前にやってきて、稽首舞を踊り始めたのである。私はもてあそばれているように思い、手足を動かすこともできなかったが、厳しい目つきでじっと護法神(ネーチュン)の目をみつめた。すると彼は四方に向かい、型どおりの演技を見せ、それから去っていった。こうして過去のことはあばかれずにすんだのだ。