シャクティとシャクタ 

アーサー・アヴァロン 宮本神酒男編訳 

 

1 バーラタ・ダルマとしてのインド宗教 

 初版を読んだ友人がオープニングの章を加えるべきだとアドバイスしてくれた。内容を理解するガイドとして、主題のもっとも一般的な、かつ根本的原理を述べ、それとともにアウトラインをまとめ、各章の関係を示すのがいいだろうと言う。目下のところ私には十分な時間がなく、またこの本の現在の版にそれだけのスペースがなく、私が望んだようなやりかたで友人の願いをかなえることはできない。そうはいっても彼のアドバイスのすべてをやりすごすわけではない。

 西欧人にとってインドの宗教は矛盾する信仰のジャングルであり、その中で迷子になってしまう。主要原理を理解した者だけが道を示すことができる。

 インドにはたくさんの宗教があるにもかかわらず、そうではないかのように主張されてきた。これは間違いなのである。すでに指摘したように(『文明化したインド?』)バーラタ・ダルマと呼ばれる共有されるインドの宗教がある。それはバラモン教徒であろうと、仏教徒であろうと、ジャイナ教徒であろうと、アーリア人に信仰されるアーリアの宗教(アーリヤダルマ)なのである。バーラタ・ダルマには主要なものが3つあるということだ。インドにはほかにも多くの宗教があるが、セム人の宗教であるユダヤ教、キリスト教、イスラム教も含まれる。これらはすべて純粋なセム人の宗教と言うわけではない。キリスト教は、西アーリア人に採用されたとき、アーリア化したキリスト教になった。そして同様のことが、ペルシア人やインドのアーリア化した人々などの東アーリア人によって受け入れられたイスラム教にも起こった。イスラム教のスーフィズムもまたおなじように、ヴェーダンタ式のスーフィズムとなった。

 
(つづく)