11 七昼夜詠じられるリス族の送魂歌

雲南禄勧県のリス族の村では、七日に及ぶ葬送儀礼においてシボ(祭司)がメチャアボス(開路経)をうたう。実際の地名を挙げながら、いつのまにかあの世を旅しているという不思議な仕掛けがあって、じつに不思議な感じがする。出発点は死の床だ。

 

床 → 家屋 → 牛の囲い → …… → 近くの石大人(摩崖仏)→ 石畳の分岐点 → 象街山 → …… → 昆明官府(ここでシボは言う、昆明城には東西南北の門があるが、北門から入って南門から出ないといけない) → …… → 武定県府 → …… → ザカ(ここで一休み、昼飯を食う。シボは言う、食べて満足したら、死者の仲間を追っていかなければならない)→ 大理三月街(大きな物産市)→ 姚安府 → モミアンガアダイ、チロサパド、マロサニド(以上三つは地名)→ (北門から入って)墓地 (ブタ、ニワトリ、犬、馬があらわれるが、撃退する)→ 府官(閻魔)と会う → 90の橋と70の溝水 → 70の水源 → 官府の大門 → 大門横のふたつの竜の泉(苦い水と甘い水。死者は苦い水を飲む)

 

禄勧は昆明の北数十キロの地点にあり、南下して昆明に行ったあと、禄勧のすぐ西隣の武定にもどる。それから西へ300キロも飛んで大理へ。大理の三月街はいまも観光客を集める大きな物産市である。市は生者だけでなく、死者も集まると考えられ、両者の交わることができる特異点であった。大理のあと東へもどって、禄勧と大理のちょうど中間点にあたる姚安に行くのだ。そのあとの三つの地名は特定できないが、イ族と同様昭通のあたりなのかもしれない。またマロサニドのマロがナシ族の送魂路線のムルと等しいとすれば、天上を示している可能性がある。そして70の水源を字義通り受け取るわけにはいかないが、水源の多くが青海省に集中していることを考えれば、リス族の送魂路が青海省へ向かっていてもおかしくはない。

リス族の送魂歌としては、雲南西北怒江(サルウィン川上流)沿岸のツォスワスンゴ(葬送歌)が出版され(雲南民族出版社1992)よく知られている。葬送のとき、死者の両側にピパという祭司が座り、交互に歌って(片方が死者を演じる)魂を送るものである。出発点はやはり死の床であり、囲炉裏や家屋から牛の囲い、牧場、川辺等をへて、高山を越え、湖辺、そして最後に太陽の出る地方に達する。近くの山脈を除くと具体的な地名はなく、ナシ族やイ族の送魂路とはかなり色合いがちがう。また「太陽の出る地方」の具体的な描写はなく、かわりに「死者は鮮やかな雲と化し、病人は黒雲と化す」「死者は足跡を残さない、病人は手の跡を残さないとあなたは言うが、北斗七星が足跡、オリオン座が手の跡なのだ」といった詩的な表現をとるのである。