ソロモン 地球内部への旅01

エンキドゥ 

 

 地球内部を訪ねたという報告例のもっとも早いものは『ギルガメシュ叙事詩』のなかに見いだされる。この古代の叙事詩は何世紀も失われていたが、ニネヴェの遺跡から発掘されてよみがえった。ギルガメシュは現存するもっとも古い文学といえるだろう。

 この叙事詩は歴史的な人物、ルガルバンダの息子であるギルガメシュの物語である。このシュメール人は紀元前2500年頃、都市ウルクを支配していた。都市の周囲をかこむ難攻不落の壁を築いたのも、ウルクの5代目の王であるギルガメシュだった。彼はイシュタル寺院も建てた。この寺院は泥レンガの家々やウルクの狭い路地からそびえたつジグラットだった。

 王のモニュメントとして壁も寺院も残ることはなかった。彼の名声が伝わるのはこのギルガメシュ叙事詩のおかげだった。詩編から、ギルガメシュがある野人と友情を結んでいることがわかる。またこの男が黄泉の国を訪ねていることもあきらかなのである。

 野人エンキドゥ(インカドゥ―)は、ガゼルに育てられた粗野で、手に負えない人間だった。エンキドゥは、いつも仲間とともに群れ、草原をさまよい、水たまりで水を飲むような暮らしを送った。しかしある日の午後、彼は突然ウルクでひときわ目立つ存在となった。ギルガメシュとレスリングをしたことから、王のいちばん近い友人となり、相棒となったのである。かれらはともに冒険シリーズの主要登場人物となった。例としては、ヒマラヤスギの森を守る鬼を殺す物語がよく知られている。

 ある日、ウルクの中央の広場で、かれらはボールゲーム興じていた。それは人をおんぶしてプレイするクローケーのようなスポーツだった。ギルガメシュはエンキドゥの背中に乗って、マレット(打球槌)をふるった。ゲームがヒートアップしたとき、ギルガメシュ・エンキドゥ組はバランスを失ってよろけてしまった。そのときボールとマレットは穴に落ちていき、戻ることのない国、すなわち死者の国、黄泉の世界へとまっさかさまに向かっていったのである。

 大事なものをなくしたギルガメシュは涙に明け暮れることになった。というのもボールとマレットは特別な木から彫り出されたものだったからである。その木は女神イシュタルに属するものだった。涙に心を動かされたエンキドゥは、黄泉の国に降りていき、ボールとマレットを持って戻ってきたいと申し入れた。

 エンキドゥは薄暗い場所へと降りていく準備を整えた。ギルガメシュは黄泉の国に関してエンキドゥに警告を発した。訪問者として、死の世界の住人にたいして敬意を払う必要があった。物腰には十分注意し、見かけや行動で目立たないようにしなければならなかった。彼が生者であることを黄泉の国の人々に悟られてはならなかった。これらの警告を心に留めなければ、彼はとらえられ、永遠に抑留されることになるだろう。

 エンキドゥは警告をけっして忘れないと約束した。そして腰をかがめて穴の中に入り、黄泉の世界へと下降した。

 エンキドゥは黄泉の国に着くと、ボールとマレットを探しながら死者のなかを進んでいった。しかし彼は警告を無視し、愚者のようにふるまった。すなわち死者と会話をし、大声で笑い、帷子(かたびら)を着ることを怠ってしまったのだ。闖入者であると認識され、彼は捕らわれの身となってしまう。

 彼の絶望の叫びは地表に届くほど大きく、ギルガメシュはエンキドゥの苦境を知ることになった。そこで彼は神々に助けを求めることにした。彼が強調したのは、エンキドゥは死んでいない、だから死者の間にいるのはふさわしくないということだった。太陽神は同意し、黄泉の国からエンキドゥを救出した。

 穴から出てきたとき、エンキドゥは安堵の叫びを発していた。ポロポロと涙を流しながら彼はギルガメシュを抱きしめた。ギルガメシュは警告を無視したことについてエンキドゥを叱った。

「とても重要なことを学ぶことはできました」とエンキドゥはいった。

「ほう、それはどういうことだ?」

「戻らずの国にはけっして行くな、ということです」

 ギルガメシュは彼に黄泉の国についてあれこれ質問した。死後の世界では、異なる人々がどのようにして暮らしているのか? あちらでは、すべての人が平等に扱われるのか? 国王は向こうでもおなじ特権を有しているのか? 

 エンキドゥは黄泉の国の人々とかわした会話を思い出した。そして生前のふるまいに応じて、また息子による葬送儀礼がきちんとおこなわれているかによって、人々は生活していると答えた。

「追悼儀礼における食べ物や水の供え物は厳しく見られています」とエンキドゥはいった。「より多くの供え物をすれば、黄泉の国ではより歓迎されるのです。毎日息子から供え物を与えられる死者がいました。彼は神々のなかに座ることができ、おいしいものを食べ、心地よい音楽を聴くことができたのです」

「すると毎日供え物が与えられない死者はどうなるのか」

「投げ与えられたゴミや屑を食べることになります」

 ギルガメシュは亡くなった父親にして先代の王、ルガルバンダのことを思い浮かべた。そして供え物をきちんとあげようと心に誓った。これで父王は、黄泉の国においても大いなる成功を収めることができるだろう。

 



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