(4)

 リンゴをポケットに入れ、トマスは歩いて町に戻った。町では民衆がこの行方不明になっていた領主のまわりに集まってきた。彼らは彼の帰還に驚いた。というのも行方不明になってから七年が経過していたからである。

 トマスはなぜ不在であったか説明した。妖精の女王が彼を捕まえて放さなかったからだと言った。しかしこの説明は複雑な反応を引き起こすことになった。中には話を信じる人もいた。しかし大半は懐疑的だった。ならず者になって田舎をさまよい歩いていたのだろうと彼らは考えた。

「ここに証拠があるよ」彼はそう言ってリンゴを彼らに見せた。「鵜王政の女王からもらったリンゴだ。こいつのおかげで予言能力を得たのだ」

 トマスは自分の塔に戻った。彼はそこで領主として、また詩人としての生活をはじめた。さらには、予言もするようになった。

 ある夜、トマスがゲストと食事をしているとき、隣人が塔に駆けこんできた。彼は驚くべき光景を見たと報告した。二匹の白い鹿が森から現れた。彼らは威厳をもったペースで塔のほうへ近づいてきているという。彼らのコートは月光を浴びて光っていた。

「彼女がわたしを呼びに来たのだ」トマスは椅子からゆっくりと立ち上がりながら言った。

 彼は「失礼」と言って外に出た。鹿がトマスのほうを見た。二匹の鹿は向きを変え、森のほうへ歩いていった。トマスは彼らのあとを追った。

 それ以来、トマスの姿を見た者はいなかった。

 


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