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 ウィルクス遠征隊は編成された初の南極探検隊だった。しかし非公式の遠征隊が何年にもわたって組まれてきたことを、レイノルズは船長たちのインタビューから知っていた。捕鯨船やアザラシ狩り船は南緯のもっとも低いエリアを突き進み、記録した。しかしこういったことは激しい競争をもたらしていた。船長たちは何かを発見してもそれを表に出さなかった。

 船長のひとりは驚くべき発見をした。少なくともそう主張した。1820年彼はその記録を出版した。

 『シムゾニア:発見の航海』というタイトルの本だった。出版社はニューヨークのJ・セイモアである。著者はキャプテン・アダム・シーボーン、あきらかに偽名だった。本はわずかしか売れなかった。そもそもほとんど人の注意をひくことはなかった。その内容は(もし事実であるなら)たいへん重大なものだったのだが。

 キャプテン・シーボーンは序文につぎのような文を寄せている。

 

 この著作の作者であり、(シムゾニアを)発見した探検家は、作家、探検家として卓越しているかどうか、著作がためになっていると同時に、楽しませているかどうかについて、読者に判断をゆだねている。海上での激闘から生まれる職業上のうぬぼれを持っているにしても、記録されたような業績があるなかで、ジョン・クリーブ・シムズ船長が刊行した地球空洞説という極上の理論によって得た名声と能力を活用していることを隠そうとしない。

 

 シムズの理論に触発されたベテランのアザラシ漁師だったシーボーンは特注の船を持ち、それをエクスプローラー(探検家)号と呼んでいた。そして50人の乗組員とともに南極へ向けて航行した。彼はアザラシ猟をして利益を得ようとしていた。しかし究極の目的は南極の穴を見つけ、地球の内側の世界を探索に行くことだった。地底世界の探検にどんな意味があるのだろうか。「わたしは仲間の市民の事業のために新しい分野の道を切り開き、富の新しい源を探し、好奇心に新鮮な餌をやり、楽しみの方法を付け加えるべきだとうぬぼれていました」。彼は真の目的を乗組員たちには話していなかった。彼らはシンプルにアザラシを探しに行くのだと考えていた。

 

 


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