守護神ゲジョ 

 このほかにも、重要な例を示すことができる。ケサル王物語において、ある神が聖なる山の守護神として竜母に受胎させる役割を担っている。その名称はチベット東部の土着の言語に属しているのだが、もとの形から相当に変化しているのか、それがチベット語だと判別しがたくなっている。すなわち、「Ge-mjo」「Ger-mjo」「Ger-’jo」(リン稿本、パコー稿本)、「Ger-mcho」(ギャンツェ稿本)、「sGer-mcho」(ミパム稿本)などの綴りが発見されている。アレクサンドラ・デヴィッド・ニールは「Kenzo」と表記し、シュミットのモンゴル版では「Oua Guncid」となっている。ラダック版では、この神の尊号と名称を混同しているようだ。

 これらの文献はどれもこの神をニェン(gnyan)とみなしている。これは山神であり、ケサル王の父なる天神(pha-lha, sku-lha)である。ラダック版はこの神を「phas-lha ker-zong snyan-po」(父なる神、ニェン神であるケルゾン)と呼んでいる。(フランケ、19051909 p95

 われらのインフォーマント(シェラプ)によると、ゲジョ(Ger-mjo)はデルゲとイルンの間にある山の山神だという。それを証明することができないにしても、だれだって名称がその地域で形成されたということを無視することはできない。この場合幸運なことに、ゲジョ(Ge-mjo)山はテンマ地区と同様、独立したいくつかの資料をもとに、その位置を確定することができたのである。「サン・イグ(bsabgs-yig)」(焚香祭文)のなかで、(ケサル王物語中)ワンシュ(dbang-gzhu)と形容されるギェルジョム(Gyer-’jom)山は、ジャ(rJa)河の山脈のことであり、その土地神(サダク)はル・ニェンである。

 それにつづくのがマチェン・ポムラ(rMa-chen sPom-ra)山であり、マ地区(黄河上流)の地方神である。『神香献祭』(rGyal-brngan lha-bsangs)は、テン(lDan)地方のウェルテ・メグ(Wer-te sme-dgu)の横のゲチョ(Ger-mcho)山とボムボルの丘(sBom-’bor sgang)の神について述べ、それからマチェン・ポムラに言及している。ボムボル(あるいはポボル)はカム6大丘のひとつである。

 ニェン神のゲジョ山からはウェルティとウェルグがよく見え、ディ(’Bri)河、すなわち金沙江(長江)の上流に位置している。このウェルティとウェルグは、ウェルテ・メグとテンとおなじである。(ネベスキー 1956) 

 『天法(カルマパ・ミキュ・ドルジェ伝)』(16451667年頃成立)は山神を多数挙げているが、なかでもニェン神、とくにゲジョ神やマルカム地方のサダク神を重要視している。そしてテン地方のウェルテ・ウェルグに言及している。ボボルと同様、マルカムはカム6大丘のひとつである。それは地図上ではガルトクと記されている。このマルカムは、リンの一部ではないかと考えられている。

ボン教の資料によれば、宝の守護者である土地神(シダク)は自らをゲジョ・ニェンポと呼んでいる。これらはダドゥ(dBra-’dru)とゴドン(sGo-ldong)にあるが、それはチベット東部であると考えられる。彼らは表面上、チベット人とまったくおなじに見えるが、じつはもともとのチベット人ではないという。ゲジョという語も彼らの言語で考えるべきだろう。カムには神秘的な形をした聖なる山があるが、それにも語尾にジョがついているという。(雲南のsNo-gzi-’jo山)