アク・トンパ物語 

新米僧の頃 

 

 ずっと遠い昔、チベットには貧しい家庭の子供が読み書きを習うことができる学校がありませんでした。その一方で、金持ちで家柄のいい子供たちは家庭教師を雇って子供たちに教えさせていました。庶民の子供たちが読み書きできるようになる唯一の方法は、男の子であればお寺に送り、女の子であれば尼寺に送ることだけでした。お寺や尼寺が受け入れてくれれば、戒が授けられて新米の僧侶となったのです。年上の僧は新米僧を弟子としてかかえ、お寺の中の生活や教育がしっかりと受けられるよう責任を負いました。

 いくつかのお寺は数百人から数千人の僧侶を擁していました。そして年上の僧の多くは5人から10人の新米僧の世話をしていました。彼らは読むことから書くことまで、あるいは儀礼的な歌まで、すべてのことを習いました。

 トンパおじさんがまだ少年だった頃、両親は彼に学ばせるためにお寺に送ることにしました。お寺に住み始めてから数か月後、若いトンパおじさんは師匠に彼が両親のもとを訪ねてもいいかどうか尋ねました。師匠は許可を出しました。

 両親はとても貧しかったので、若いトンパおじさんはすぐお寺に戻りました。彼が師匠の部屋に入ると何かとてもいい匂いが漂ってきました。見ると師匠は大皿に山盛りになったモモ(チベット餃子)を食べていたのです。彼は長い旅を終えたばかりだったので、とても疲れて、お腹がすいていました。おじさんはなんとか師匠のごちそうにあずかれないかと願いました。しかしチベットでは、だれかの食事、とくに目上の人に食事を分けてもらえないかとたずねるのはとても失礼なことでした。

 彼は急いで師匠のところに近づき、たずねました。

「師匠! 師匠! 両親のもとに帰った私の旅で何があったかご存知ですか」

 食事に夢中になっていた師匠はあまり興味がないといったふうに「何だね?」とぞんざいな口ぶりでたずねました。

「両親のもとへ帰る途中、私は黄金がいっぱいに詰まった袋を見つけたのです」若い僧侶は明るい表情で言いました。

 突然興味を持った師匠はおどろいて顔をあげ、トンパおじさんにモモをあげながら、にっこりと笑ってたずねました。「で、その黄金はどうなったんだね?」

 満足げにモモをむしゃむしゃ食べながらトンパおじさんは言いました。「両親には、お師匠さまのところに黄金を持っていくと話しました」

 貪欲な師匠はモモをもう二つトンパおじさんにあげながら、迫りました。「それから何が起きたのだ、話してくれ」

 若い僧はこたえました。「両親が言うには、半分は彼らのもとに置いて、半分を師匠に渡せばいいのではないかというのです」

 師匠はモモをもう3つ渡しながらたずねました。「それでおまえは両親に何と言ったんだね」

「私は両親と言い争いました。袋ごと師匠に渡すべきだと思ったのです。だって師匠は必要なものすべてを分け与えてくださるのですから」

 師匠は貪欲な笑みを満面に浮かべて残りのモモをすべてとなおじさんにあげると、言いました。「それでどうなった?」

 その頃には、師匠の大皿はからっぽになっていました。若いトンパおじさんは両手を空中に伸ばしながら、あくびをして、目をこすりながら言いました。「黄金について言い争っているとき、ハッと目が覚めたのです」

*「黄金の瓦の夢」と同種のエピソード